第20話 ゴシップ好き
林田長官は表情少なく資料をめくりながら言った。
「アイドルグループの影響は我々の想像以上でした。彼らの喪失がこれほど社会に影響を与えること我々は軽く見てはいけなかった。不幸にして亡くなられた方のご冥福を心よりお祈り申し上げたい」
「だから答えになってないんです!」
冴木は声を荒げた。
「なぜ彼女たちが死なねばならなかったかを、国は真剣に考えないといけない。アイドルしか頼るべきものがなかった彼女たちをそうさせたのは誰ですか?」
内閣官房事務局から演台に立つ林田に別の資料が手渡された。林田はそれを見ながら、答弁を続けた。
「先だって、自殺総合対策の推進に関する有識者会議から厚生労働大臣に答申があり、アイドルロスによる社会的弱者救済支援金の創設を内閣で検討しています。支援金制度ができれば助かる命もきっとあるでしょう。国も何もしてこなかったわけではない。 はい、次どうぞ」
林田長官は別の質問者を指名した。
「アジアンニュースJPエンタメ部の曽我です。1点質問させてください。今回の連続自殺、カウボーイ事務所には何らかの調査は入るのでしょうか?」
芸能レポーターらしい質問だった。林田長官は能面顔のまま言った。
「政府が芸能事務所を調査するようなことはありません」
もっともな回答だ。すると曽我は問い方を変えた。
「突然の解散に至った経緯の中で、カウボーイ事務所のタレント管理に問題がなかったかどうかは調べる価値があると思うんですがね?」
林田長官は少し表情を崩して逆に問うた。
「いくら自殺者が多出したといえ、管理は国ではなく、仰るとおりタレントが所属していた事務所の方でしょうね。だが、それを調べるのはむしろあなた方のお仕事ではないのですか?」
「閣下から言われると、そうですね。ゴシップを好む私どもが調べなければなりませんかね」
記者たちの笑い声が響いた。林田長官も笑みを浮かべた。
「お任せします」
「しかし、聞いたところによると、カウボーイ事務所から『J×MAP』を売るためあちこちに金がばら撒かれていたとか。紅白司会者や政府広報などに便宜を図ってもらうため、禁じられているはずの政治献金もあったとか、なかったとか・・・もちろんゴシップなんでしょうが」
林田長官の顔から笑みが消え、能面顔に戻っていた。
水無月はたち
1964年大阪下町生まれ。同志社大学経済学部卒。現在、大阪の某大学勤務。
優しい奥様と独立独歩した我が子たちだけが自慢。
-筆歴-
2023年4月 『戦力外からのリアル三刀流』(つむぎ書房)発刊
2024年3月 『空飛ぶクルマのその先へ 〜沈む自動車業界盟主と捨てられた町工場の対決〜』(つむぎ書房)発刊
2024年7月 『ガチの親子ゲンカやさかい』(つむぎ書房)発刊
2025年7月 『いまじゃ 殺れ 信長を』(つむぎ書房)発刊
2026年3月16日 『神より選ばれし偶像たち』(つむぎ書房)発刊
※当作品は100%作者の手で作り上げた不完全なヒューマンドラマです。AIの力は全く借りておりません。つづきはこちら↓




