第19話 監督責任
あまりの社会的影響の大きさに異例のことだが、内閣官房長官が定例の記者会見で芸能問題、即ち『J×MAP』の解散についてコメントを出した。時の内閣官房長官は政治資金問題で揺れる第2次岸部内閣で唯一の無派閥、林田誠三郎が任命されていた。内々には人気芸能人の話題性に頼ることで内閣の支持率を少しでも回復したい意図が感じられる。林田内閣官房長官は記者会見の冒頭、
「まずはこれまでにお亡くなりなられた26名の『J×MAP』のファンの方々のご冥福を心よりお祈り申し上げます」
そう述べた後、数秒黙祷を捧げた。そして目を開き、こう続けた。
「これほど多くの尊い命が自ら失われたことは誠に遺憾であります。しかし、一方でそれだけ『J×MAP』が国民に果たして来られた功績が多大なものであったことを裏付けることであり、逆に言えばアイドルの喪失が社会に与える負の影響も軽んじられないほどに大きかったと言うことであります」
すかさず一人の記者が手を上げた。林田長官が俯き加減で記者を指差す。
「北國新報の冴木です。私は新潟で起きた集団自殺を取材していましたが、亡くなられた3人の女性は自殺サイトを通じて直前に知り合いました。謂わば、全くの赤の他人だったわけですが、彼女たちは非常に強い連帯感を持って、同じ場所で死ぬことを選択しました。そこには一切の躊躇いの跡がなかったと現場検証をした検事は言っていました。他にも同様のサイトで自殺志願者を募り互いをよく知らぬ者同士が、あまりに簡単に命を落としたケースが全国で多々見受けられます。これに対して、政府は自殺サイトなどの運営を取り締まる措置を怠ってきたと思うのです」
林田長官は質問者の冴木を見ずに手元の資料だけを見て言った。
「痛ましい事故を防げなかったことは何とも遺憾であります。政府としても自殺者を防げるよう最善を尽くし、混乱がこれ以上大きくならぬことを願います」
冴木はその場に立ったまま渋い表情で質問を繰り返した。
「自殺サイトの運営を国がきっちり取り締まっていたら彼女たちのうち何人かは助かったと思うんです。国に監督責任があったと理解してよろしいですか?」
水無月はたち
1964年大阪下町生まれ。同志社大学経済学部卒。現在、大阪の某大学勤務。
優しい奥様と独立独歩した我が子たちだけが自慢。
-筆歴-
2023年4月 『戦力外からのリアル三刀流』(つむぎ書房)発刊
2024年3月 『空飛ぶクルマのその先へ 〜沈む自動車業界盟主と捨てられた町工場の対決〜』(つむぎ書房)発刊
2024年7月 『ガチの親子ゲンカやさかい』(つむぎ書房)発刊
2025年7月 『いまじゃ 殺れ 信長を』(つむぎ書房)発刊
2026年3月16日 『神より選ばれし偶像たち』(つむぎ書房)発刊
※当作品は100%作者の手で作り上げた不完全なヒューマンドラマです。AIの力は全く借りておりません。つづきはこちら↓




