第18話 何か手を打つべき
だが、残念ながら自殺したファンの数はそれで留まらなかった。5月、厚生労働省が主催する自殺総合対策の推進に関する有識者会議がオンラインで開催されていた。座長を務めるのは、大学共同利用機関法人理事、花澤弘成。花澤は会の冒頭の議題「自殺の動向」のくだりでこう述べた。
「誠に悲しいことですが、今月だけで8人となってしまいました」
有識者会議の構成員で一般社団法人日本いのちの電話連盟常務理事の白鳥香澄がすぐさま手を上げるボタンを押した。花澤が白鳥香澄を指名する。
「白鳥委員どうぞ」
白鳥は訊ねた。
「それは『J×MAP』のファンだけですか? それとも他のアイドルロスも含めての?」
花澤は言った。
「『J×MAP』だけです」
画面に小さく映る白鳥は俯いて声を漏らした。マイクは彼女の嘆き声を拾い会の参加者に届ける。
「どうしてこうも『J×MAP』ばかりが・・・」
NPO法人自殺対策支援センター代表の瀧屋史彦が手を上げる。座長の花澤は瀧屋を指名する。
「瀧屋委員どうぞ」
「ありがとうございます。そうすると、『J×MAP』関連死だけで先々月12人、先月6人でしたから合わせて26人ということですね?」
花澤は言った。
「そのとおりです」
「前回報告では、年齢は10代から20代まででしたが、今度はどうなのでしょうか? やはり若者が中心で?」
花澤は事務局から資料を受け取りこう答えた。
「今回の8人には30代も40代も含まれています」
「なんと・・・そんな幅広く・・・」
声を漏らしたのはマイクをオンにしたままの白鳥だった。瀧屋はさらに訊ねた。
「やはり集団で?」
花澤は首を振る。
「今回の8人はすべて単独です。ネットの呼びかけもなかったと見られる」
「すると、社会から完全に孤立していた・・・?」
「まだわかりませんが、最初の犠牲者、長谷部郁美さんのケースと似ています。全員女性、仕事は非正規、同居家族なしといった点で」
花澤座長は犠牲者という言葉で長谷部郁美を表現した。一般社団法人全国自死遺族連絡会副代表の加藤沙奈江がマイクをオンにして座長の花澤に迫った。
「これ以上、犠牲者を出してはいけない。即刻、国は何か手を打つべきです」
花澤座長は言った。
「加藤委員の仰ることよくわかります。では喫緊課題として、こうしてはどうでしょうか。アイドルを失い生きる望みを無くしてしまう者たちを救済するために、社会的弱者救済支援金の拠出を国にお願いするというのは?」
誰も異議を唱えなかった。
自殺総合対策の推進に関する有識者会議。大層な名前を付けているが、税金を無心することぐらいしか策を導き出せなかった。
水無月はたち
1964年大阪下町生まれ。同志社大学経済学部卒。現在、大阪の某大学勤務。
優しい奥様と独立独歩した我が子たちだけが自慢。
-筆歴-
2023年4月 『戦力外からのリアル三刀流』(つむぎ書房)発刊
2024年3月 『空飛ぶクルマのその先へ 〜沈む自動車業界盟主と捨てられた町工場の対決〜』(つむぎ書房)発刊
2024年7月 『ガチの親子ゲンカやさかい』(つむぎ書房)発刊
2025年7月 『いまじゃ 殺れ 信長を』(つむぎ書房)発刊
2026年3月16日 『神より選ばれし偶像たち』(つむぎ書房)発刊
※当作品は100%作者の手で作り上げた不完全なヒューマンドラマです。AIの力は全く借りておりません。つづきはこちら↓




