第17話 架空じゃない
小坂部は遺体を運ぶワゴン車にもたれ呟く。
「彼女たちの命より大事なものなんだろう。でなければこんな悲惨な出来事は起きない」
同様の集団自殺が日本全国ですでに3件起きていた。それらはいずれも遺体が『J×MAP』のファンを称していた。口を開かずとも彼女らの死装束が、自殺の原因を物語っていた。
「死んだって会えるわけじゃないのに」
副検事の和田は唇を噛み締め言った。
「アイドルグループが解散したくらいで死ななきゃならないなんてバカげてますよ」
仏さまを愚弄するつもりはないが、和田は早まった彼女たちを叱り付けてやりたい気持ちだった。事故現場の検証には慣れている小坂部は、悔しがる和田の肩を叩いて言った。
「確かにバカげているが、これはアイドルのせいばかりじゃないさ。アイドルに入れ込まざるを得なかった彼女たちの暮らし向きにも原因はある」
それはいまの生きづらい社会をディスった小坂部なりの抵抗だろう。しかし、和田は小坂部ほどに視野を広げなかった。
「自分の親がどんなに悲しむか考えたことあるんだろうか?」
小学生の娘を持つ和田は、彼女たちの自殺を他人事とは捉えられなかった。
「親のことを思えるならこんなことはしない。彼女たちの世界に住んでいた住人はたった一人、それも肌と肌を触れ合わせたこともないある意味架空の人物だったんだ」
これに小坂部は反駁する。
「いえ、架空であり続ければむしろ失望もなかったでしょう。だけど彼女たちは近づこうとした実在のアイドルに。握手会にも行ったでしょうし、追っかけていれば直接声を掛けてもらえることもあったかもしれません。そうなればアイドルはもう架空じゃない。彼女たちにとっては実在です。けれど、どこまで近づいても彼らからは自分の世界に来てはくれない遠い実在です」
「そうなると、罪はアイドルにもあるってことになるぞ」
「娘を亡くした親から見ればそうですね。通念上は彼らには何の責任もありませんが」
「肌と肌で抱きしめてくれる確かな存在は親だけなんだがな」
「せめてその前に相談してあげて欲しかった・・・」
小坂部と和田はこれ以上、『J×MAP』ロスの犠牲者がでないことを願った。




