第15話 娘を返して!
『J×MAP』を見た時、彼女は自分の倹しい生活に光があたったと思った。『J×MAP』はそれまでのアイドルと違った。いつだって何かに体当たりしていた。きれいなお顔なのに戯けたお芝居をして自分を笑わせてくれる。つらい表情なんてひとつもしない。『J×MAP』を見ていると孤独であることを忘れられた。彼らの格闘する生き方に自分を重ねて生きる支えにした。なかでも、スポーツマンタイプの伊馬且延が彼女の一番のお気に入りだった。伊馬且延に関するものならなんでも集めた。ファンクラブであっても入手困難なコンサートチケットを全国どこであろうが買い求め、運良く取れた会場には遠方であろうが足を運び『J×MAP』に会いに行った。グッズも手当たり次第買いまくった。アルバイトで貯めたお金は全て『J×MAP』に費やした。彼らのBlogやFacebookは毎日欠かさずチェックした。『J×MAP』は、そして伊馬且延は、彼女の生活そのものだった。その『J×MAP』が突然、解散した。
伊馬且延は芸能界を引退、航空パイロットの道を選んだ。茜詩郎と葉室剛士と赤澤慎之介は独立して新たな事務所を立ち上げた。夢藤雅樹と飛柳拓海はカウボーイ事務所に残ったが、『J×MAP』を継承せず、それぞれが単独で芸能活動を続けると宣言した。
その衝撃的なニュースは彼女、長谷部郁美をどん底に陥れた。『J×MAP』の6人が集まることはもうない。どこのコンサート会場に行っても彼らはいないのである。郁美にはそれがどうしても受け入れられなかった。
郁美の母親は娘の部屋にあった伊馬且延をさらに可愛くデフォルメしたマスコットキャラクターを手に取り眉を寄せた。
「こんなもののために郁ちゃんが・・・」
壁のポスターを睨みつけて父親は虚しく呟いた。
「他に逃げる場所はあっただろう、なあ、郁美?」
そしてポスターの伊馬且延を殴りつけ俯いた。母親はマスコットキャラクターを畳に叩きつけ涙ながらに訴えた。
「郁ちゃんを返してちょうだい!」




