第14話 アイドルロス
一人の女性が自殺した。リストカットして。
血飛沫残る遺書には、『逃げる場所がもうどこにもありません』と記されてあった。
上京してずっと一人暮らしだった娘の突然の死に両親は、誰に責めを押しつければよいのかわからなかった。しかし、娘の最期を囲った孤独なアパートに足を踏み入れた時、両親は誰が娘を殺したのかを悟った。
壁一面に貼られたポスターと僅かな収入の中で娘が買い揃えたTシャツやパーカーやバッグにタオル、ペンライトやキーホルダーなどの小物、DVDや聖地巡礼の写真などが部屋中を占拠していたのを見た時、両親はこの子が何を頼りにこの生きづらい街で呼吸をしていたのかを知った。
彼女の一番の推しは、『J×MAP』の伊馬且延だった。且延の顔が写っているグッズがほとんどだったことから、両親ははじめて娘が先日芸能界を引退した伊馬且延のファンであったことを知った。
母は言った。
「あの子、そんなことひと言もいわなかったのに・・・」
父は言った。
「そんな者のために、死なねばならなかったのか・・・」
離れて暮らしていた娘の心許ない心情に、理解が及ばなかった。なぜ、アイドルがいなくなって自殺をしなければならないのか。虚空を見上げ母は呟く。
「器用な子じゃなかったけれど・・・」
目を伏して父は呟く。
「彼氏もお友達もいなかったのか・・・」
田舎に帰ってこなかった娘を、両親は都会でいい人がいるのだろうと思っていた。いつの日かフィアンセを連れて帰ってくることを願っていた。しかし、実際の彼女の暮らしはアルバイトで食いつなぎ、特別な出会いもなく、仲の良い友達もおらず、孤独を極めていた。そんな彼女が生きがいを見つけた。アイドルである。




