幻影
気分は落ち着かなかったし、食欲もなかったが、部屋で軽食を食べて横になっていると、いつの間にか眠ってしまっていた。
真夜中になって目を覚ました私は、外が暗くなっていることに気がついつて、カーテンを閉めるために立ちあがった。
いつもはベイルが閉めてくれているのだが、屋敷の中ではメイドが担当になっていたはずだ。お互いどこまで担当すればいいのか分からなくなってしまい、閉め忘れたのだろう。
前にも一度こういうことがあったので、私は何も考えずにカーテンを閉めるために窓際へ寄った。
「えっ、ユン兄?」
窓の外には、ユン兄の姿が見えていた。ユン兄は、こちらへ向かって手を振ると、屋敷の外へ向かって歩いて行ってしまった。
「どこへ行くの?」
私は不思議に思いながらも上着を羽織ると、屋敷を出てユン兄の後を追った。フェル兄から屋敷を出るなと言われていたが、この時の私は正常な判断が出来る状態では無かった。
屋敷の入り口まで行くと、ユン兄は何故か屋敷の外へ出ていた。屋敷から出てはいけない――そう言われていたのを思い出したが、ユン兄の姿を見たら、自分でも気がつかないうちに走り出していた。
「待って!」
私は見失わないように、必死にユン兄の後を追った。だから気がつかなかった。いつの間にか、自分が屋敷の外へ出てしまったことや、遺跡の近くへ転移してしまったことさえも。
ユン兄の後を追っている内に、気がついたことがあった。ユン兄は私の前を走っているのに、何も音がしないということだった。真夜中の静けさの中には、私の足音だけが響いていた。
その上、この時期には珍しく森には霧が出ていた。濃い霧に気を取られていたせいか、走り続けているうちに、遺跡に近づいていたことに気がつかなかった。
「ユン兄!」
一心不乱に走っていたが、ユン兄の姿は、いつの間にか霧の中に消えてしまっていた。
「どこなの?」




