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魔術師団長の息子

 次の日。ベイルと二人で登城しようとしたが、許可証の日にちが明日からになっていたらしく、私達は城の入り口で門前払いをくらっていた。


「もう、なんなのよ」


「仕方ありません。お嬢様、今日は観光でもして一日を過ごしましょう」


 ベイルが気遣ってくれるのはありがたいが、私は王太子殿下の治療に来ているのだ。観光などしている場合ではない。


「でも──」


「未来の王太子妃として、国の様子を知っておくことは、いいことだと思いますよ」


 私が王太子妃になる未来は来ないだろう。しかしながら、今はそういう()()で動いている。無事に婚約破棄される未来のためにも、余計な事は言わない方がいいだろう。


「そうね。じゃあ、本屋さんにでも行ってみようかしら」


 王都には伯爵領とは比べものにならないくらい、たくさんの本が置いてあると聞いていた。休みの日に行こうと思っていた本屋さんへ、私達は向かうことにした。



※※※※※



 大通りから脇道へ入って、一本先の通りの角に目的の本屋さんは建っていた。本の絵が描かれた古びた看板と石畳の入り口があり、思わず階段を駆け上がると、私は店の扉を開けた。


 ――フワッ


「ひえっ……」


 店内に入ると身体が浮き上がった。50センチほど浮き上がった私の身体は、宙に浮いたまま店内を進んだ。


「危ない!」


 見知らぬ少年の声に振り返ると、重力が戻ったのか、床に叩きつけられていた。思ったより痛くないなと思っていると、少年が下敷きになっていて、私は青くなった。


「ちょっと、大丈夫?」


「なに、自業自得じゃ」


 店の奥にある椅子に腰掛けて本を読んでいるおじいさんは、お店の人なのか、青いエプロンを身につけていた。白い口ひげに手を当てると、声を立てて笑っていた。


「お嬢さん、巻き込んですまなかったね。その子が、どうしても魔術誌に掲載されている浮遊魔術を試したいというので、見物しておったのじゃよ」


「あっ、月刊ミリタリ号」


 ミリタリ号とは魔術について書かれた雑誌である。迷信や噂の魔術、魔術理論などが書かれていて、最近は新しい魔術の可能性を示唆するようなことも書かれていた。魔術を知らない人が読んでも、面白いと評判の魔術誌だ。


「最後の一冊。僕が買ったんだ」


「もしかして浮遊魔術って先週告知のあったやつ? 買ったその日に、その場で実験するなんて、何考えてるのよ?」


「じいちゃんが、一度でいいから見てみたいって言ってさ」


「おじいさん、下手したら死にますよ?」


「いやぁ。冥土の土産になればいいなと思って」


 そう言ったおじいさんは、再び笑っていた。私のことを心配して側へ来たベイルが、どうしたらいいのか分からなかったのか、おろおろしていた。


「お前――貴族なのか?」


「ええ。レイラ・フレイアよ。先に名乗るのが礼儀ではなくって?」


 私がそう言うと、少し驚いた顔をした少年は、決まりが悪そうに鼻を掻いていた。


「リトッシュ・オリベールだ」


「オリベール? あなた、まさかオリベールJr(ジュニア)?!」


「陰では、そう呼ばれているみたいだな」


 オリベール侯爵は、国の魔術師団を束ねる魔術師団長をしている。その息子であるオリベールJrは、私と同い年で確か8才のはずだが、すでに高度な魔術を使える魔術師として有名だった。




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