憂心
「そうそう。そのうち、ひょっこり戻ってくるかもしれないし……」
後から来たフェル兄が、ハンスを気遣うように声を掛けていた。よく見れば、ハンスの顔色はかなり悪かった。
「そうだといいのですが……」
「もうすぐ日も暮れるし、今日のところは家に帰ったらどうだ?」
「いいえ、私はここにいます」
「今日の農作業、終わってないんだろう? 仕事を終わらせてから来なさい。何かあれば、すぐに自警団へ知らせるようにするから」
「分かりました。仕事を終わらせてきます」
そう言うと、ハンスは踵を返して村へ戻っていった。ハンスは馬に乗れないため、徒歩でである。
歩きで遺跡の近くまで行って帰って来るには、馬が無いと半日以上かかる。ユン兄が彼を置いていったのも、仕方が無い話だろう。
「父上──今度、ハンスに馬の乗り方を教えます」
「ああ、そうしてくれ」
私達は集まっていた村人に一度家へ帰るように促すと、屋敷の中へ入った。
「困ったことになりましたね」
「領主の息子が行方不明になったんだ。みんな怖がっているのだろう。領民達が不安にならないよう気をつけていてくれ。それから、遺跡には近づかないように、後でもう一度、言っておいてくれないか?」
「分かりました」
「私は少し書斎に籠もる」
お父様はそう言うと、2階の書斎へ行ってしまった。
「レイラ、遺跡には近づかないんだよ」
「心得ておりますわ」
フェル兄は一度つらそうな顔をした後、笑顔を見せると私の頭を撫でていた。頭を撫でられるような年ではなかったが、フェル兄の気持ちを考えると、手を振りほどく事なんて出来なかった。
「村の様子を見てくるよ」
フェル兄は仕事モードに入ったのか、澄ました顔をすると屋敷を出て行った。




