店休日
「ええ。年中無休と聞きましたの。よっぽどのことが無い限り、開いていると思いますが……」
「よっぽどのことが、あったみたいですね」
「え?」
アイラと二人で馬車から降りると、店のドアの前まで行ってみた──店の前にある看板には『店休日』と書かれた看板が置いてあった。
「何かあったのかしら?」
「ただのお休みですかね。もしくは、他の街へ仕入れに行ったとか」
「それは無いと思うわ。全部、本人による手作りだったみたいだし」
「残念ですわ──また今度にしましょう」
「アイラ様、せっかく時間を作ってくれたのに、ごめんなさい」
「構いませんわ、気にしないでくださいまし」
「そうだ、アイラ様。せっかくなので一緒に喫茶店へ行きませんか?」
「喫茶店ですか?」
私は御者に行き先を告げると、再び馬車に乗ってアイラと一緒に、喫茶店へ行くことにしたのだった。
※※※※※
「これは、まさか喫茶セトカでは?」
前世の知識があるアイラは、喫茶店を見て一発でゲームに出てくる喫茶セトカだと見抜いていた。ゲームと現実では、実際に違うところも多く、なかなか気づけなかったりするのだが──きっとアイラは、ゲームが好きだったに違いない。
「さすがアイラ様。喫茶セトカをご存じだったのですね」
「ご存じも何も、ゲームの定番スポットですもの。ああっ、ゲームはこの世界に無いのでしたわね」
二人とも季節のケーキセットを頼むと、2階にある本を取りに行った。本を持ってきたところで、ウェイターがケーキと紅茶を運んでくる。
「アイラ様、実は私――」
私も転生者なんです――そう言おうとした。これまで、何度か言おうとしたものの、そのたびにミーアが現れて、何となく言えずにいたのだ。言うなら今がチャンスだと思った。
「おっと失礼。申し訳ございません。新しいものをお持ちします」
配膳していたウェイターが、紅茶をソーサーに溢していた。わたしが急に身を乗り出してしまったせいかもしれない。
「そのままで構いませんわ」
「承知いたしました」
「それで、アイラ様――」
「何でしょう」
今度はアイラ様が身を乗り出すようにして、私の話に耳を傾けようとしていた――というのも、空いていた個室が特殊な作りで、他の個室と違って、席と席が離れていたのだ。
「失礼」
ウェイターが、今度はアイラのケーキをお皿の上で倒していた。イチゴと旬のフルーツがのった生クリームのケーキは、倒れて無様な形になっていた。
「も、申し訳ございません」
「……」
二度も失敗をしたウェイターは、恐縮していた。必死に頭を下げる様子に、アイラは何も言えなかったようだ。
「取り替えて参ります」
「このままで構わないわ。味は同じだし……」
「ですが──」
「また来たときに、何かサービスでもしてちょうだい」
「……かしこまりました」
前世の話をするような雰囲気ではなくなってしまい、私は言おうとした言葉を、再び呑み込んだ。
「レイラ様、新しく立ち上げるブランドについてなのですが……」
その後、アイラの新しく立ち上げるブランドの話になり、喫茶店を出た後は、一緒に買い物をして学園へ帰った。
結局のところ、アイラに自分が転生者であることを話せないまま、その日は一日が終わったのだった。




