転移陣
次の日の朝。私たちは馬車に乗って、王都へ向かった。二、三日で着く旅の予定だったが、オリバ先生が近道を知っているというので、王都へは向かわず、途中で街道を突っ切って、森の奥深くへ向かった。すると、そこには巨大な遺跡の入口と思われる場所が現れた。
「うわっ、すごい……」
語彙力のない私は、遺跡を見て感嘆詞しか出てこなかった。そんな私を見て、先生は笑っていた。
「この先に、転移陣があります。馬車一、二台分くらいなら、何とかなるでしょう。レイラ様は転移するのは初めてですか?」
「はい」
「初めて転移陣を使う人は、必ずと言っていいほど魔力酔いを起こします。ベイルに掴まりなさい。少しは、マシになるでしょうから」
「お嬢様、お手を……」
「ええ、お願い」
ベイルが差し出した手を掴むと、私は目を瞑った。転移陣の上に着いたのか、馬車の動きが止まり、先生が窓から顔を出した。
御者へ合図を送ると詠唱を始める。各地域にある転移陣は王都へ繋がっているが、古の魔術は高度な魔術が必要となる。そのため、試験を受けて合格した者しか使えないと聞いていた。
先生は、魔術師の中でも高度な魔術をいくつも使えるので、大昔に存在していた大賢者セルスの再来と言われている。
「鍵は次世代へ引き継がれた。我はこの国の鍵を知り、預けられた者である。導きたまえ、エクスポート!」
先生の言葉に驚いて目を開けると、地面が光っているのか、馬車の中は目映い光に包まれた。
「レイラ、見ておきなさい。その方が魔術を習得するのに役立つでしょう」
「はい、先生」
私たちは光に包まれ、次の瞬間には森の中から忽然と姿を消していたのだった。
※※※※※
再び降り立った地も、森の中だった。私は転移する場所を先生が間違えてしまったのかと思い、向かいの席を見た。
「先生?」
座席を見れば、さっきまでいた先生は、いなくなっていた。
「どこ、ここ?」
席を立ち上がろうとすると、私を引っ張る手があった。
「ちょっと、ベイル。はなして」
「うっ……」
「なに?」
「魔力酔いです」
「えー! でも今、緊急事態なのよ。先生もいないし。もしかして、吐きそう?」
「……はい」
「ごめん、ちょっと待ってて」
馬車を降りて先生を探したが、周囲には何もなかった。御者もおらず、目の前には石碑が建っていた。
「――メルドリ共和国の誓約?」
石碑には私の住んでいる国と、違う国名が彫られた石碑が建っていた。いたずらにしては、手が込みすぎている。
「お嬢様?」
私が転移陣へ戻ると、陣が再び光り始めた。先程と同じ目映い光に、私は身を屈めた。
「ベイル。きっと、また転移するわ。私に掴まって」
「お嬢様!」
何が何だか分からずに、ベイルと手を掴み合うと、光が収まるまで再び身を屈めて今度は目を閉じていた。
光が収まり、顔を上げると、そこには玉のような汗をかいた先生と御者の人が立っていた。王都の端にある教会の裏庭へ転移したのは分かったが、何が起こったのか分からない。
「先生?」
「何か別の魔力が干渉してきたのでしょう。今起こったことは、忘れなさい。いいですね?」
「はい。でも先生、転移先を間違えただけのように見えましたが、そうではないという事ですか?」
「時が来れば、知識を得て理解出来るようになるでしょう。今は知る必要のないことです。マナーと勉学に励みなさい」
先生の剣幕に、私は何も言うことが出来なかった。王都にある先生の屋敷へ案内されると、私は明日の登城へ向けて準備を進めたのだった。




