スノードーム
「レイラ、何か気に入るものはあった?」
「どれも可愛らしいものばかりで――これは、魔術ですか?」
何もしていないのに、スノードームの中には雪が降り続いていた。
「はい。その中に、魔石が籠められております」
「風魔術ですか?」
「ええ。学園のオリバ先生に監修していただきました。半永久的に雪が降り続けます。もっとも、本物の雪ではなく中の素材が舞っているだけなのですが」
私は雪の中に立っている家と雪だるまを作っている女の子に降り続ける雪を見ていた。いつまでも見ていられそうだ。
「他の雑貨にも魔術が?」
「ええ。このお店は、魔術雑貨が売りのお店になっています。普通の雑貨より値段は高めですが、それなりの機能が備わっていると思います」
「このコップは?」
「そちらは水の出るコップと、水がお酒に変わるコップになっております」
「お父様が喜びそうなコップね」
ペアになって売られていたコップには、それぞれ別の役割があった。夫婦茶碗的なコップではないのだと分かって、思わず笑ってしまう。
「レイラ、そのコップが気に入ったの?」
「お父様に買って差し上げようと思って」
「え? レイラの誕生日プレゼントはどうするの?」
「殿下これにしますわ」
「雪の降る置物?」
「何だか可愛くて、ずっと見ていられます」
「レイラの気に入るものがあってよかった」
「ありがとうございます、殿下」
買い物を済ませて外へ出ると、お店の人が外へ見送りに来ていた。
「またのお越しをお待ちしております」
「素敵なお店ですね」
「ありがとうございます。あの、オリバ先生はお元気ですか?」
「ええ。元気ですよ。今日もマナーのレッスンで怒られちゃいましたけど」
「お城でも教えているんですね」
「あの、オリバ先生とは――」
「魔術学園で同級生だったんです。私の父が不正をして爵位剥奪になってしまったのですが、平民になってからも、彼女は私のことを気に掛けてくれて――このお店の出資金も半分は彼女が用意してくれたんです。彼女には感謝してもしきれません」
「そうだったんですね。素敵なお店で気に入っちゃいました」
「よろしければ、また来てください」
「ありがとうございます。また来ます」
私達が馬車に乗ると、彼女は手を振っていた。私が手を振り返すと、馬車が走り出す。
「実はオリバ先生に教えてもらったんだ。レイラが興味ありそうなお店に心当たりはないかって」
「そんな気がしましたわ。ありがとうございます、ラインハルト様。とても嬉しいです」
「気に入ってくれて良かった。そのコップは伯爵に贈るの?」
「ええ。次の休みの時に会いに行こうと思いまして」
春休みにでも会いに行こう──そう思っていたら、馬車が大通りを横切る時に、街で手を繋ぎながら歩くミーアとフィリップを見た気がした。
「どうしたのレイラ?」
「……」
でも一瞬のことで、本当に彼らだったのか分からない。最近、彼らのことを気にしすぎて、似たような人物が彼らに見えただけなのかもしれない。物事を憶測だけで話すのは、よくないだろう。
「いえ。何というか──世の中、上手くいくことばかりではありませんね」
「え?」
驚いている殿下を余所に、私は窓の外の景色を眺めながら、溜め息をついたのだった。




