見えざるものの手
冒険者ギルドと食堂は、木製のドアで繋がっていたが、ドアには鍵が掛けられていたため開けることは出来なかった。
隣の建物からは、ミーアや他の生徒達の悲鳴が聞こえてきて、私達四人はその場で固まった。
「どうなってるの?」
「分からないわ。とにかく、外へ出ましょう」
アイラの言葉に、私達は外へ出ることにした。食堂には動揺が波のように広がっており、外に出ようとした他の客と、ぶつかり合いながらも外へ出ると、目の前には恐怖に怯える人々が、隣にある冒険者ギルドを見上げていた。
「見えざるものの――手?」
私達は視界に捉えることの出来ない見えない力のことを『見えざるもの』もしくは『見えざるものの手』と呼んでいた。名前の通り、こちらを攻撃してくる目に見えない物体のことをいう。
冒険者ギルドには、黒い粒子が紫色に光りながら、建物全体を覆うように攻撃を繰り返していた。見えざるものの手の攻撃を、外側から見るのが初めてだった私は愕然とした。
こんなにも激しい攻撃と、いつも闘っていたのか──間髪入れない執拗な攻撃に、背筋が凍る思いがした。
「レイラ様?」
「ごめんなさい、驚いてしまったの――外から見るのは初めてだったから」
「大丈夫?」
アイラの言葉に頷くと、私は冒険者ギルドめがけて走り、開け放たれたドアから中へ飛び込んだ。私は見えざるものの手を迎え撃つために殿下の元へ走り、敵と対峙した。
「レ、レイラ? どうしてここに」
「ラインハルト様、その話は後で」
「あ、ああ……」
既に攻撃を受けてしまったのか、殿下は腕から血を流していた。キヌアも敵の攻撃を受けたのか、地面に倒れている。身体を引きずりながらも、這い上がろうとしているキヌアに声を掛けると、私は自分の魔術に集中した。
「キヌア、いいわ。ここは私にまかせて」
「御意」
「あ、あのレイラ様。今、攻撃を受けたばかりで、私も闘おうとしたんです。そしたら、その黒い人が出てきて敵と闘ってしまわれたので」
よく見れば、後ろにはミーアがいた。フィリップの影に隠れて見えなかったが、二人は逃げ出さずに殿下の傍にいたようだ。
「殿下、大丈夫ですか?」
「ああ、すまない。また、ふがいないところを見せてしまったな」
「守ってあげたくなる人も、私は好きですよ」
「え?」
「リュ・ソルテラ!」
私は見えざるものの手へ魔術を放った。敵は見えないし、周りに黒い靄は見えているのに、敵の本体は見えなかった。
けれど私には、何故かそこにいるということが分かった。敵の位置を正確に把握した私は、迷うことなく魔術を放ち、正確な位置を貫いた。
「レイラ様、すごい……」
学校で習って使った時より、強い風魔術が放たれていた──何故かキラキラとした粒子も舞っている。どうやら、無意識のうちに聖魔術も重ね掛けして魔術を放っていたらしい。キラキラとした粒子がキヌアや殿下に降り注いで、殿下達のケガも治っていた。
「聖女様だ。聖女様が悪の手を追い払ってくれたぞ!」
「聖女様、万歳!」
「ありがとう、聖女様!」
フィリップの後ろに隠れていたミーアは、怯えているのか、まだフィリップの後ろにいて彼の腕を掴んでいた。私の視線に気がつくと、ミーアは慌てて手を放し、私達の様子を伺っていた。
(あー、もう。リトッシュの作戦はどうなってるのよ)




