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使命感

「婚約者であるアイラにケガの様子を見て欲しいと。傍にいて支えて欲しいと、陛下たっての希望なんだ。娘はまだ幼いからと言って、私は断ったんだが──」


「行きますわ」


「何だって?!」


 私の即答に、お父様は目を白黒させていた。


「だって、殿下は今、苦しんでいるんでしょう? 苦しんでいる人を放っておけないわ」


「いや、しかしな……」


 私は前世で自分がベッドの中で動けずに苦しんでいたことを、思い出していた。自分に他人の病を癒せる能力があるというのに、誰かに辛い思いをさせたままでいいはずがない──そう思っていた。


「あと5年後に、婚約破棄されてしまうと思うんだけど、今のうちに王族に恩を売っておくのも、悪くないと思うの」


「また、お前は――何を根拠にそんなことを……」


「当たり前よ。何を根拠に伯爵令嬢である私が、王太子殿下と結婚できると思ってるの? 夢みたいなこと言わないでよ」


 そう、モブ以下である私が王太子殿下と本当に婚約なんて出来るわけがない。そして何より、王族と結婚するなんて面倒くさかった。


「私は婚約しているレイラが、殿下と結婚できないと思っていることの方が、理解できなくて苦しいよ」


「まあ、何を仰っているのです? お父様。私と殿下では、釣り合いが取れていないじゃありませんの」


 自分の顔立ちは悪くはないと思う。けれど、猫のように釣り上がった目や、人より大きな口を好きにはなれなかった。


「そうかもしれないな」


「……」


 お父様は既に諦めモードだった。私のことを愛してくれるお父様は大好きだったが、悲しませたい訳ではないのだ。


「王都へ行かせるのは心配だが、側仕えとしてベイルを同行させよう。それなら私も安心だ」


 側仕えのベイルは、今は侍従の仕事をしているが、ゆくゆくは執事の職を任されると噂されている有能な人物だ。彼と一緒なら、私も心強い。


「ありがとうございます、お父様。それで、その――オリバ先生の授業は……」


「オリバ先生に頼んで、王都へ同行してもらおう。いや、伯爵邸の本邸は王都にあるんだ。王都に居を移した方が、先生も動きやすいだろう」


「よかった。魔術の授業は続けられるのね」


「レイラは、そればっかりだな。マナーの授業も、もう少し身を入れて頑張らないと、後で大変な思いをするのはレイラなんだよ」


 モブですらない私が断罪される可能性は低いが、何があるかは分からない。魔術を習得していれば、食うに困らないだろうという打算もあったが、人というものは興味がなく、必要と感じていないものを頑張れないものだと思った。


 頑張らなくていいと思うものを頑張らなくてはいけないというのは、思ったより骨の折れることだと思う。しかし、これも修行だと思って頑張るしかない。


「分かっておりますわ、お父様」


 お父様は私の顔を見てため息をつくと、紅茶を一口飲んで微笑んだのだった。




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