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幸せの限界値

 アイラは限界だったのか、倒れ込むように椅子へ座ると、俯きながら独り言を言うように喋っていた。


「私は、どうしたらいいの? ストーリーは変えられないの? やっぱり悪役令嬢は、どこまでいっても悪役令嬢なんだわ」


「アイラ様? その、結婚するだけが女性の幸せではないと私は思います。わたしはアイラ様の個性的な性格を好ましく思っています――ええと、アイラ様はアイラ様です。それは、どこまでいっても変わりませんし、そのままでいて欲しいと思っています。ただ、私に一つだけ言えることがあるとすれば、アイラ様にも良い旦那様が、そのうち現れると思うんです」


「……」


「フィリップ様のことも、諦める必要はないと思います。私見ですが、お二人は私から見たら、この間までは、とても良い感じに見えたんです。とりあえず、気持ちを伝えてみてからでも、遅くないんじゃないでしょうか?」


「──ええ、そうね。私にはブランドショップを立ち上げるという夢があるわ。夢を叶えるためだったら、私はいくらでも頑張れる」


「ブランドショップ、いいと思います。ミーアとは顔を合わせたくないでしょうし、少しの間でよろしければ、私の方で預かりますが──どうしますか?」


「……お願いするわ」


「アイラ様、元気を出してください」


「せっかくのガーデンカフェが台無しね。ごめんなさい。お菓子を持って行ってちょうだい」


「ありがとうございます」


(ごめんなさいが言える悪役令嬢なんて、いないと思うんだけど)


 アイラの自己評価が低いことが気になりつつも、お菓子を受け取った私は、側にいたベイルにそれを持たせた。午後の授業に向かいながら、私はもらったマカロンを一つ、口の中へ放り込んだのだった。



※※※※※



 それからの日々は何事もなく過ぎていった。傍目には、そう見えたかもしれない。ただ、あまりにも距離を取り過ぎるアイラとミーアに周囲は困惑していた。あれだけ四六時中一緒にいたのだ。二人が一緒にいないのは、なんだかしっくりこなかった。私の側にいるのは、他の人の警護を学ぶためと言ってあったが、どう考えても最近のミーアは、ぼーっとしていることが多かった。周りが不審がるのも当然の事だろう。


「あの二人、どうかしたの?」


 リトッシュに二人のことを聞かれた私は、当たり障りのない返事をした。


「どうもしないわよ。ミーアは私の護衛をして、今までの護衛に不足はなかったか、確認中なの」


「それにしては、ぼーっとしすぎじゃないのか?」


「ええと、それは……」


「フィリップが、ミーアに求婚したって本当?」


「えっ? なんで?」


「やっぱり、そうなのか」


「鎌かけたわね」


「話してくれないのが悪い」


「話してどうなるのよ」


「一人よりは二人だろう?」


 私にはリトッシュの考えていることが分からなかった。分からなかったが、確かに一人で考えているよりは、二人で考えた方がいい考えが思い浮かぶかもしれないと思った。


「どうするつもり?」


「それはね――」


 リトッシュの考えに賛成は出来なかったものの、それ以外にいい方法が思い浮かばなかった私は、彼の提案にのることにした。




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