怒りの矛先
「えっと、トムは寂しいから別れたいと言ったんでしょう? 私はトムじゃないから分からないけど、お互いのためを思って別れた方がいいって──そういう話だったんじゃないの?」
「でも、私はまだトムのことが好きです。愛しています」
そう言って、ミーアは泣き出してしまった。すぐ側にはベイルが控えていたし、渡り廊下を歩いている生徒達は、こちらをチラチラと見ながら歩いていた。端から見たら、きっと私がミーアをいじめているように見えるのだろう。
「とりあえず、アイラ様のところへ行ってみましょう。話はそれからよ」
私達は東屋を出ると、アイラの待っているローズガーデンへ向かった。
※※※※※
アイラが一緒にお菓子を食べようと言ったローズガーデンへ着くと、アイラは仁王立ちして私達を待っていた。
「随分と遅かったじゃない?」
「アイラ様、遅れて申し訳ありません」
私が淑女の礼をしたあと、お詫びの挨拶をしていると、アイラは不機嫌そうに椅子へ座った。ただそれは、私にではなくミーアへ苛立っているようにも見えた。
「ミーア、最近フィリップと仲がいいのね」
「いえ、そんなことは――護衛の話をたまにするだけで」
「たまに護衛の話をするだけなのに、どうして公爵家へ婚約の打診の手紙が来るのよ」
「へ? 婚約?」
公爵家へ婚約の打診とくれば、それはアイラへの婚約の打診の場合がほとんどだ。公爵令嬢の護衛に婚約の打診の話が来るなんて、前代未聞だろう。
「えーと、聖女だから婚約の打診の話が来たのかなぁーよく分からないなー」
二人の険悪なムードに耐えきれなかった私は、余計なことかもしれないと思いつつ、『聖女だから』などと言ってしまった。それを聞いたアイラは目に涙をためながら、震える声で言った。
「なんでミーアが別れたことを、フィリップが知ってるのよ」
「え? 言ったら不味かったでしょうか?」
「当たり前よ。あなたは聖女になるはずだったのよ。フリーになったって――誰でも選べるようになったなんてこと、軽々しく口にするものじゃないわ。淑女なんだから」
「でも、私は平民です」
「だから、少しは空気読みなさいって言ってるのよ! あなたの主は誰なのよ」
「もちろん、アイラ様です。でも私は、離婚して悲しくて、悲しくて――誰かに話を聞いて貰いたかっただけなんです。誰かに話さないと胸が張り裂けそうで、仕方がなかったんです」
「じゃあ、なんで私に言わなかったのよ」
「だって、雇用主にそんな話はするべきじゃないって、トムが――」
「別れた旦那の言葉をまだ信じているのね、かわいそうな子」
それを聞いたミーアは、大泣きしながらローズガーデンを出て行った。いくら頭にきているとはいえ、さすがに今のは言い過ぎだろう。
「どうして、こんなことになるのよ……」




