婚約破棄
物陰から二人の様子を見ていたが、ミーア達が見えなくなって呆然としていると、背後から声を掛けられた。
「何してるんですか、お貴族様?」
「レイラよ。その言い方、久しぶりね。バレてたの?」
「最初っから、気がついてました。私は──その、アイラ様に対して、どうして素っ気なくなったのか気になって……」
「分かってるわ。ミーアには、その気が無いってこと」
「課外授業を一緒に回らないかって聞かれました。あと、護衛の件で話がしたいから休みの日に一緒に出かけないかって――」
「ええ? 休みの日に護衛の話って?」
将来的にフィリップは殿下の護衛、ミーアはアイラの護衛に就くことになるだろう。けれど、休みの日に一緒に出かけて話し合いをするのは、少し違う気がする。
「それが、よく分からないんです」
「よく分からないって、それってデートじゃない?」
「やっぱりレイラ様も、そう思いますか?」
「なんて答えたのよ?」
「適当に、はぐらかしました」
「どうするのよ。仮にも、ミーアには婚約者がいるのよ? 浮気は良くないわ。フィリップ様も見かけによらないわね。婚約者がいる人に手を出したら外聞もよくないでしょうに。女遊びをするような性格には見えないけど……」
フィリップは、どこからどう見ても爽やかな好青年だ。ゲームに出てくるキャラクターの中でも、常に人気ナンバーツーで、不倫をするようなイメージは一切無い。
「そのことなんですが、実は私、このたび婚約破棄されてしまいして――」
「え?」
「だから、トムに婚約破棄されました」
(え? 婚約破棄って──別れたってこと?!)
私はミーアの言葉に驚いたが、彼女自身がショックを受けているのも分かって、何も言えなかった──顔を赤くしながらしゃべっているのは、おそらく恥ずかしかったからなのだろう。自分の辛い気持ちを押し殺して、賢明に話す彼女の姿は何だか哀れだった。
「何で、また……」
「学園へ戻って欲しくないと言われました。私には護衛の仕事があるからと、何度も説得したのですが、寂しくておかしくなりそうだと言われて、何も言えませんでした」
「そうだったの」
(え? 待って。友達の別れ話なんて、どういう顔で話を聞いてればいいの? まだ前世でも、今世でも誰とも付き合ったことがないんだけど……)
「別れるって――淫紋はどうしたの?」
「それは、魔術師が村を立ち去る際に置いていった解毒薬を飲んだら、すぐに治りました。でもアイラ様がしばらくは様子を見た方がいいだろうと言って――でも、久しぶりに帰ったら、トムと別れることになって──本当に、トムは私と別れたかったのでしょうか? トムは、私のことがまだ好きみたいなんです。私も別れたいと言われても、正直なところ納得できないというか、何というか……」




