忘れ草の後遺症
翌々週になって、ミーアは無事に学園へ戻ってきた。アイラの働きもあって、今は勉強の遅れを取り戻すために補習を受けている。
一方、フィリップは三日間目を覚まさず、私達を心配させた。けれど、目を覚ますと何事も無かったかのように、再び生活を送っていた。
検査を受けた時も、何も異常が見つからなかったらしく、いつも通りに私達と一緒に授業を受けていた。
────ボンッ
フィリップだけ、魔術の実験に失敗していた。魔石を使っての授業で、魔石にどの属性でもいいので、魔力を込めると生活用水が出せるという授業だった。
山へ遠征へ行った時など、水が無い場所での生活用水は必需品で、騎士団の特殊部隊に所属できるかどうかも、この魔石を発動できることが所属の最低条件となっていた。
「どうしたのですか? 最近、調子が出ないようですが……」
「すみません。忘れ草の影響を受けた後、少し記憶が曖昧になってしまって――そのせいかは分からないのですが、魔術が少し詰まることがあるのです」
「詰まる?」
フィリップの答えに、オリバ先生は眉根を寄せて考え込んでいた。優秀な生徒が魔術を上手く使えなくなってしまったことに、違和感を抱いているのかもしれない。
「ええと――魔術を使う際に、上手く放出できないイメージですかね?」
「分かりました。今日は、これくらいにしておきましょう」
オリバ先生に、そう言われたフィリップの表情は暗かった。卒業はまだ先だが、来週からは課外授業が始まる。騎士団長の息子で将来を有望視されているフィリップが、生活用水も出せないとなると問題だろう。彼の心境を考えると辛いものがあるが、仕方がないとも思う。
「あのフィリップ様――」
来週の課外授業について話をしようとすると、後ろからアイラが来ていてフィリップへ話しかけた。
「フィリップ様――うちのシェフが腕によりをかけて新作のマカロンを作りましたの。よろしかったら、昼休みにみんなで一緒に召し上がりませんか?」
「すまない。昼休みは用事があるので――失礼する」
そう言ってフィリップは教室を出て行った。ここ数日、アイラはフィリップを勇気づけようと必死だ。前までは、フィリップもまんざらではないのかな――などと思っていたが、目覚めてからのフィリップのアイラを見る目は、どこか暗くて虚ろだった。
「アイラ様、私は食べてみたいですわ」
「ありがとうございます、レイラ様。フィリップ様に、振られてしまいましたわ」
「いつものことじゃないですか――失礼する」
「およしになって」
私がふざけてフィリップのまねをすると、アイラに受けたのか爆笑していた。令嬢にあるまじき爆笑ではあったが、今は誰もとがめる者がいない――それくらい、アイラに対するフィリップの態度は酷薄だった。
昼休みになって、私はアイラに呼ばれたローズガーデンに、ベイルと一緒に向かっていた。新作のお菓子に浮かれていた私は、廊下で転びそうになってしまい、態勢を立て直せないまま、通路の端の先まで歩いてしまった──その時、中庭の奥にある東屋が見えて、私は思わず立ち止まった。
(え、フィリップとミーア? なんで一緒にいるのよ)
フィリップとミーアは楽しそうに談笑していた。二人とも昔からの知り合いで、気の置けない相手といった感じである。いや、アイラの護衛をしているならば、確かに以前からの知り合いかもしれないが……。
私はベイルを連れて、東屋の近くにある草木の茂みまで忍び足で向かうと身を隠した。結局のところ、何を話しているかまでは分からなかったが、一目見ただけで親しい間柄ということだけは分かった。帰り際にお互いがお互いの肩をたたき合っているのを見て、私は目を瞠った。




