思念体
上からは分からなかったが、井戸の側面が一部へこんでおり、その先が通路になっていた。人一人が通れるくらいの大きさだが、先が見えないため、危険な感じもする。
「どうしますか? 通路があったという報告だけにしておきますか? 私達三人だけでは、何かあった時に対処が出来ませんし」
「フィリップ、すまないが、もう少し行って見よう。リトッシュも、井戸の底に着いてからの記憶が無いと言っていたし、おそらく問題は、この先にあるのだろう」
「分かりました。何かあれば、すぐに引き返しますからね」
「分かってる」
「レイラ、明かりを頼めるかい?」
「はい――リルライト!」
私が光魔術で辺りを照らすと、通路の少し先まで明かりが照らし出された。通路は奥まで続いている。
「ここで終わり?」
30メートルくらい進んだ先で、通路は行き止まりになっていた。目の前には大きな壁画があり、壁画には左側に杖を持った老人らしき人が描かれており、右側にはそれを崇拝するように頭を下げている人々が描かれていた。
「リトッシュは、ここで一体何を見たんだろうな」
殿下がそう言った瞬間、壁画の前にホログラムのような映像が現れた。黒いローブに白いあごひげをたくわえた老人はフードを被っていたが、誰かに似ていると思った。
「あなたは、まさか――賢者セルス?!」
フィリップの裏返った声に、映像の中の老人はニヤリと笑ったように見えた。
「王族の血を引く者よ――我が名はセルス。遠い異国の地から来た罪人じゃ」
「ここへ来たら、自動的に音声が流れるようになっているのでしょうか?」
フィリップが殿下に質問をしていたが、代わりにセルスが答えていた。
「そうでは無い。これは、私の記憶の一部を元に残された魔術具じゃ。だから、考えもするし、受け答えもできる――ある程度はな」
「思念体――ということでしょうか?」
「そう考えてもらって、差し支えない」
殿下の質問にホログラムのセルスは答えていた。前世で言うところの『AI』かしら? 質問すれば答えてくれるって、何だかア〇クサみたい。
「教えてくれ、セルス。見えざるものの手とは、一体何なんだ?」
「少し話が長くなりますが、よろしいか?」
「構わない」
殿下がこちらを見ていたので頷くと、フィリップも同様に頷いていた。
「お願いします」
「――今から1000年以上前の話じゃ。私は遠い異国の地で罪人として追われていた。何も悪いことなどしていなかったし、研究していた新しい魔術が完成しようとしていた所だった。それが、実験が違法だと言われ、国を追われることになってしまったのじゃ。逃げても逃げても、奴らはわしのことを追ってきた。もうどうにもならないと思ったとき、この世界の存在に気がついたのじゃ」
「この世界?」




