王都へ
伯爵領へ帰ってからも、婚約者として勉強することもなく、いつも通り兄様達について回り、山で狩りをしていた。
「ユン兄様、待って。鹿はどうやって狩るの?」
「レイラに鹿は、まだ早いかな」
「フェル兄様、私に罠の作り方を教えてくださいませ」
「いいよ。ここに手を置いて、こうやるんだ」
「兄さま、こうですか?」
「あっ、レイラ! レイラが引っ掛かってどうするんだよ」
「ごめんなさい」
「今日は見学してような」
「はぁい」
お父様は、そんな私の様子を見かねたのか、新しく家庭教師をつけてくれた。魔術と礼儀作法を教えてくれる優しくも厳しい先生で、名をオリバ・クレイルという。
「レイラ様、スプーンは水平に! ああっ、背筋は伸ばして!」
魔術も教えられる先生は、彼女しかいなかったらしく、穏やかさの中にある厳しい教え方を私は気に入っていた。今は魔術を習う時間が楽しみで仕方ない。
オリバ先生は子爵家出身らしいのだが、教え方は今まで習ったどの先生よりも上手かった。嫁ぎ先の伯爵家当主が亡くなった後、伯爵家を支えるために、得意の魔術を生かして、各地で家庭教師をしてるという。
「先生、魔術の授業がやりたいです」
「レイラ様、今はマナーの時間ですよ。早く覚えることが出来たら、魔術の授業時間が増やせないか、ご当主様に相談してみましょう」
「やった、頑張ります!」
今までよりも俄然やる気がの出た私は、それからはマナーの授業にも力を入れるようになった。
※※※※※
三ヶ月後。魔術の授業を楽しんでいると、急にお父様に呼び出されて、私は執務室へ向かった。ドアをノックしてから中へ入ると、お父様はいつにも増して難しい顔をしていた。眉間には皺が寄っている。
「レイラ、話がある」
「何ですか?」
「うむ。急なんだが──明日から王都へ行って欲しい」
「王都? 仕事ですか?」
「いや、そうじゃないんだが……」
ゲームスタートは、魔術学園に入学する5年後だ。それまで、辺境の地で狩りでもして、のんびり過ごせばいいと思っていた。
主人公が魔術学園に現れて殿下と出会えれば、私は婚約者の立場を降りてお役御免である。
「お父様、何かあったのですか? 魔術学園には、13才にならないと入学できないと聞いておりますが……」
「いや、そうじゃなくて……」
「もう、はっきり言ってくださいませ!」
「先日、ラインハルト殿下が襲われて、大ケガを負ったそうだ。一命は取り留めたようだが、後遺症が残ってしまったらしくてな。侍医が全力で治癒にあたっているらしいんだが、いつまた襲撃があるとも限らないだろう?」
「それで?」




