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淫紋

 アイラ様の話を聞いていて分かったことは、コンラッドやリトッシュがミーアに襲いかかりそうになった原因は、ミーアのお腹に描かれている魔術陣が原因だったということだ。


「ミーア、自分で自分のお腹に魔術陣を描いたの?」


「違います~私はアイラ様やレイラ様と違って、魔術陣なんか描けません。この間、久しぶりに村へ帰省した時、婚約者のトムが寂しがっていたので、占い師のヒャミンのところへ行ったんです。そしたら、二人の未来は安泰だって言って――もし、不安なら追加料金になるけど、お腹に魔術陣を描いて、邪気を払ってやろうって言ったんです。これさえあれば、二人の未来は安泰だって」


「これは……」


 言うのを躊躇っているアイラを見て、私ははっきりとミーアへ告げた。


「これは、淫紋ね」


「淫紋?!」


「淫紋って、まさか男の人を誰彼かまわず、誘って相手を虜にするという……」


「そう、禁断の魔術」


 ミーアはショックを受けたのか、固まってしまった。何も喋らなくなってしまったミーアに、アイラは慰めるように話した。


「どうして、淫紋なんてお腹に描いたの? 効果は知らなかったの?」


「はい。占い師の人は、子供はしばらく出来ないだろう──とか言ってましたね」


 アイラはミーアの淫紋を見つめると、憂い顔で言った。


「確かに子供が作れないような術式になっているわ。あとは、男性を定期的に受け入れないと、匂いを発して男性を誰彼かまわず誘ってしまうという、典型的な淫紋ね。その占い師は、ミーアの村にいるの?」


「それが、旅人で――占ってもらった翌日にはいなくなってました」


「たちが悪いわね。今度見つけたら、手配書でも出すようにお父様に言っておきましょう」


「あっ、でも仲良くしていれば、二週間くらいで消えるだろうって、淫紋をお腹に描いた占い師の人は言ってましたよ」


 私とアイラは無言で見つめ合った。言いづらいことをミーアに伝えなくてはならない。


 できればアイラに言って欲しい。二人を引き合わせたのはアイラだ。今となっては、お互いがお互いを想い合っていることは分かってはいるが、半ば無理矢理引き合わせたことには違いないのだから。


「ミーア、あのね、仲良くするっていうのは──」


「知ってます。二人で仲良くするってことですよね? 合ってますか?」


(そんな爽やかな笑顔で男女の関係を語られてもね……。本当に分かってるのかしら?)


「ミーア、貴方には暇を出します。貴方の今の症状は、トムと仲良くすることでしか解決しないでしょう。淫紋が消えるまで、村で謹慎していてください」


「そんな……。アイラ様、勉強についてくだけで、精一杯だったんですよ? どうやって、追いつけと」


「殿下に、もしもの事があったらどうするのです? 公爵家としても責任をとらなければならなくなり、貴方のことも解雇しなければなりません。そうなってからでは、遅いのですよ」


「分かりました。一度、家に帰ります。アイラ様も、私とフィリップ様の間に何かあるんじゃ無いかと、気が気じゃ無いでしょうから」


「それは――ありません」


「またまた、そんな訳ないじゃないですか。分かりました、いいですよ。秘密にしておきましょう」


 ミーアは訳知り顔で微笑むと、立ち上がった──その後、ミーアは迎えに来てくれた工房のトムらしき男性と一緒に、公爵家所有の馬車で村へ帰っていった。ヒロイン不在の学園がどうなるのかとも思ったが、ここはゲームの世界であっても私達にとっては現実世界。決められた未来など無いのだ。自分たちで道を切り開いて行くのだと……。ミーアの淫紋を見て、改めてそう気づかされたのだった。




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