殿下との遭遇
「なんだっ、この匂いは?」
ミーアから香水のような甘い匂いが漂ってきた。コンラッドは、この匂いが駄目なのか、口元を押さえるようにして咳き込んだ。
「コンラッド様?!」
コンラッドは立ち上がると、目が虚ろな状態でこちらへ近づいてきて、突然ミーアに抱きついた。
「何するんですか?!」
ミーアに突き飛ばされたコンラッドは、気を失ったのか、再び立ち上がることは無かった。
「ごめん。僕も、その匂いは――おかしくなりそうだ」
リトッシュも苦しそうに胸の辺りを掻きながら、こちらを見ていた。コンラッドと同じで目が虚ろになっている。
「ミーア? 何か思い当たる節はある?」
「ええと、あるような、ないような……」
「もう! どっちなのよ」
「レイラ様、ここは一旦、寮へ戻りましょう」
「アイラ様――そうですね。二人でミーアを寮へ避難させましょう」
ミーアが危険だと思った私達は、コンラッドとリトッシュは、鼻を押さえて何とか持ち堪えているベイルにお願いして、私とアイラでミーアを寮へ送り届けることにした。
校舎を出たところで、殿下とばったり出くわしてしまう──フィリップも一緒だ。
「レイラ? 慌ててどうしたの?」
「あの、殿下申し訳ありません。今は緊急事態でして……」
私はアイラに目配せすると、二人で寮へ先に帰るように促した。
「レイラ様、ごきげんよう」
「ごきげんよう」
二人が去ったのを確認してから、私は殿下に向き直った。
「急用なんです。私も、ここで失礼致します」
「待って」
殿下に手首を掴まれると、苦しそうな顔で見つめられた。何か言いたそうにしている瞳が揺れている。
「さっき聞いたんだけど、球技大会で生徒が一人、行方不明になったんだ」
「行方不明?」
「驚かないで聞いて欲しい。その、行方不明になった生徒は、リトッシュ・オリベール侯爵令息なんだ」
「リトッシュ様なら、理事長室へ向かう途中の廊下で倒れていましたわ」
何が何だか訳が分からない状況に、半ば投げやりに答えると、殿下は驚いていた。
「えっ?! リトッシュが? 大丈夫なのかい?」
「たぶん、気を失っているだけだと思います」
まさか、ミーアに襲いかかりそうになっていたとも言えない。私は殿下の手をそっと振りほどくと、正面からまっすぐに見つめて言った。
「殿下、申し訳ありません。急いでますので、その話はまた後で!」
私は踵を返すと、アイラ達が向かった寮へ向かった。
「え? レイラ?!」
殿下を振り切った私は、ミーアが滞在している寮の入り口で自分の名前を告げた。すると、しばらくして受付の人が、ミーアの部屋まで案内してくれた。
「ありがとうございます。ここまでで結構です。後は自分たちで話し合いますから」
私がそう言った瞬間、部屋の中から絶叫が聞こえた。
「い――やぁぁぁ、なにそれ?!」
不思議そうな顔をしている受付の人に一礼をすると、私はノックをして部屋の中へ入った。
「失礼しま――ミーア、どうしたの?」
部屋の中へ入ると、ミーアはベッドに倒れ伏して泣いていた。
「どうもこうも、この匂いの原因については、ミーアの責任なのよ」
腕組みをしていたアイラは、顎に手を当てると、ため息をついていた。
「どういうことですか?」




