影という名の護衛
「いえ、そういう訳では──ただ、ラインハルト様にとって、私では不足かと」
「学園での生活もあるけど、やっぱり倒そう。代々王族が苦しめられてきた訳の分からない攻撃だが、いつかは解決しなければならない問題だろう。忙しさにかまけて、このまま放置すれば、いつかは良くない結果を生み出す――レイラ、協力してくれないか?」
「見えざるものを倒すのですか?」
「ああ。倒すまでにレイラの言うように自分自身を見つめ直すよ。だから、真剣に考えて私の心が決まったら、レイラも私に真剣に向き合って心を決めて欲しい」
「分かりました」
(ん? 真剣に向き合って、真剣に答える? それって、それって結婚の覚悟を決めなさいってことぉ?!)
私が混乱していると、急に目の前に見たこともない男性が、街路樹の影から現れた。全身黒い衣服を着ているが、街の中にいても全く違和感のない格好だった。
「殿下――私も陰ながら応援させていただきます」
「どちら様?」
「レイラ。この人は、私の『影』だ。学園の外で私の護衛をしている」
「護衛? さっきまでいらっしゃいませんでしたよね?」
「レイラ、彼は先月から私につくことになった専属護衛だ。いつも見えない場所から見張ってくれている。四六時中という訳にはいかないが、ほとんどいつも、ついて来てくれている」
「どうも──気がつきませんでしたわ。ラインハルト様をよろしくお願い致します」
「御意。誠心誠意お仕えさせていただきます」
「Kは堅いなぁ」
「Kですか?」
「彼には名前がないんだよ」
「え――名前がなければ、不便ではありませんか?」
「……大丈夫でございます」
「父上の意向でね。名前がない方が良いだろうって。名前を決めたら、何かあったときに私が傷つくと思ってるんだよ、陛下は。何を考えているんだろうね」
「ねぇ、あなたの本当の名前を教えてくださらない?」
「ございません」
「私がつけてもいい?」
「お好きに」
「決めた。今日からあなたは『キヌア』よ。よろしくね、キヌア」
「御意」
彼は一言だけ言うと、目の前からいなくなり、再び何処かへ消えていった。
「今更だけど、名前をつけても良かったのかしら?」
「もちろん。私もキヌアって呼ぶよ」
「名前がないと不便よね?」
「ああ、私もそう思うよ」
そう言った殿下の微笑みは、この世のものとは思えないほど美しく、思わず見とれてしまったのだった。




