接触事故
「コンラッド、お前はいいよな。セルクに入れるんだから。私は殿下のことがあるから、まだ何処にも入れないでいるんだ」
「いや、同じだよ。今からセルクに入ったら、練習が嫌だから入ったって思われるだろ? 今からなんて入れないよ」
「二人とも、話はそれくらいにして練習しましょう。あと30回はやらないと、オリバ先生は帰してくれないわよ」
私は目の前に高く積み上げられた紙のケースを眺めていた。
「なんで紙は破れるんでしょうね」
「紙だからよ」
「こんなの、水につけたら破れるに決まってるじゃないですか」
コンラッドは練習に飽きてきたのか、項垂れるように座りながら呟いていた。コンラッドの言葉に同意するように私は頷いた。
「当たり前よ。あれ? リトッシュ。そう言えば、魔術を使用していいのは水だけでボールに干渉してはいけないのよね」
「そう聞いてますけど?」
「じゃあ、魔術で掬う方の紙に影響を与えて掬いやすくするのは、どうかしら?」
「普通に駄目じゃないですか?」
「えっ、そう? 聞くだけ聞いてみるのもいいんじゃない?」
「事前に準備しておくのも駄目だと思いますけど」
「じゃあ、私がオリバ先生に聞いてみるわね」
私が教員室へ行くと、オリバ先生にはリトッシュが言ったとおり、駄目だと言われた。小細工をすれば、その時点で失格なるという。
「アイラさん、紙に何かするのは禁止しても、どう使うのかは自由ですよ。もう少し工夫してみてはいかがです?」
オリバ先生は、学園では私のことを『さん』づけで呼んでいた。学園では生徒の立場は平等ということで、そう呼んだ方が対外的にも平等であることが示せるのだという──そんな話をベイルから聞いていた。
「ありがとうございます、オリバ先生」
クラスへ戻るとリトッシュ達が、水を操ろうとして、再び紙を破っていたところだった。
「先生、何だって?」
「禁止だって。でも、紙に何かをするのは禁止でも、どう使うかは自由だって言ってたわ」
「それだ!」
「なに、リトッシュ?」
「紙だよ。紙に使用の制限がないのであれば重ねればいい」
「重ねる?」
「あれ、知らない? 何枚も同じ紙を重ねると破れにくくなるんだよ」
「え、本当に?」
「試してみてよ」
私は半信半疑になりながら、紙のトレーを二つ受け取ると重ねて、以前していた時と同じようにボールを掬った。
「すごい。本当に破れないのね」
「だろう? ちょっと貸してみて」
「はい」
リトッシュに渡そうとしたトレーを取り落としそうになってしまった私は、前のめりになり、リトッシュの上に覆い被さった。
避けきれなかったリトッシュは、私と向き合ったまま、折り重なるようにして床へ倒れた。その拍子に、リトッシュの唇に自分の唇が触れる。
「ごめっ、わざとじゃないんだ。避けようとして、でも避けたらレイラ様が転ぶと思ったら避けられなくて」
「いえ、いいのよ。私が悪かったわ」
二人とも悪いことはしてないのに、慌て過ぎてしまい、混乱していた。横で見ていたベイルが半眼でこちらを見ていたが、ため息をつくと言った。
「今回の事は事故ということで、見なかったことにしたいのは山々ですが、殿下には報告させていただきますね」
「ベイル、待って。それだけは」
「殿下との約束ですので。申し訳ありません」
私はベイルの言葉が気になりながらも、練習を続けている内に夢中になってしまい、帰る頃には、そんな風に言われたことを忘れてしまっていた。




