新しい婚約者
事情が分かるまでは帰宅できないと言われ、私は城の客室に閉じ込められていた。数日後、国王陛下に呼び出されて謁見の間へ行くと、重臣達が玉座へ続く道に並びに立っていた。先日の一件についてもそうだったが、入れ替わりの件について、誰が仕組んだことなのか──慎重に捜査が進められていたようだった。
「おもてを上げよ」
お父様と一緒に陛下の前で膝をつき、頭を垂れていた。陛下の言葉に顔を上げると、陛下の横にラインハルト殿下とディストリア公爵がいるのを見て息を呑んだ。
「楽にしてよい。今回の一件、そなたには非が無いことの確認が取れた。公爵にも事実を確認し、話し合って今回の決断に至った」
(今回の決断って、解放してくれるってことよね?)
「はっ、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
陛下の言葉に疑問を抱きながらも、お父様が臣下の礼をしたので、私もそれに倣い礼をした。
「本日より、フレイア伯爵の娘であるレイラを我が息子、ラインハルトの婚約者とする」
「は?」
「え?」
「以上である」
呆然としているお父様と私を置いて、国王陛下と殿下は、この場を立ち去ろうとしていた。
「すっ、少しお待ちを! 陛下!」
お父様が慌てて国王陛下を引き留めると、陛下は振り返って言った。
「何じゃ?」
「恐れながら、ラインハルト王太子殿下の婚約者は――公爵様のご令嬢であったはずです。なぜ私の娘が、恐れ多くも殿下の婚約者になど……」
「そなたの娘はアウラ神の加護を受けているようじゃ。伯爵、そなたはそのことを隠しておったな」
ゲームでは王太子殿下の婚約者は、聖魔術を使える者が対象者となる。ちなみに魔術が使えるのは国民全体の1パーセントにも満たない。その中でも聖魔術を使える人間はごくわずかである。
「そんなつもりは──ただ、聖魔術を使える者は、拐かされたりと昔から危険な目にあっております。アイラ様のこともありましたから、娘が大きくなってから陛下にはご報告をと思いまして……」
「もう、よい。決まったことじゃ。公爵の娘は、金髪金目だが聖魔術が使えないことが判明している。それに、先日そなたの娘は私の息子の命を救ってくれた。婚約者にするのには十分な理由だと思うが──のぅ、公爵?」
古い言い伝えだが、王家の血筋に金髪金目の女の子が生まれたら、聖魔術が使えると言われている。おそらくだが、アイラは王家の血が濃いし、金髪金目だからラインハルトの婚約者に選ばれたのだろう。
「はい。恐れながら、申し上げます。娘は聖魔術を使えないことを気に病んでおり、自分は殿下の婚約者にふさわしくないと――そう申しておりました。今回のことで、肩の荷が降りたのでしょう。今は熱が出て自宅で休んでおります」
(いや、ちょっと待って。ゲームで破滅エンドになるから嫌だって私には言ってたわよね? 公爵様の解釈の幅、広すぎじゃない?)
「しかし、まだ聖魔術が使えないと決まった訳では……」
当然、後から魔術を使えるようになる者もいる。ゲームでは、イベントをクリアすると使える様になる場合もあるが、この世界では、少し違う。稀に70才を過ぎてから発現する者もいたりして、どういう仕組みなのか分からないが――その辺りは、設定がバグってるのか何なのか、この世界では本当に人それぞれなのである。
「わしがよいと言っているのだ。誰にも口出しはさせぬ。公爵も、それでよいな?」
「はっ」
公爵が臣下の礼をすると、お父様もそれに続き頭を下げたので、私も慌てて頭を下げた。
「レイラ嬢は、後でラインハルトと面会するように」
「承知いたしました」
さっさと帰ろうと思っていたことが、ばれたのかと思ったが、そうではなかったようだ。ラインハルト殿下が、こちらを見て微笑んでいた。
(何かフラグが立ってしまったのだろうか)
私は言い知れぬ不安を抱えたまま、謁見の間を後にしたのだった。




