四人目の攻略対象者
魔術学園入学式当日。私は殿下と一緒に、入学式会場である大聖堂へ来ていた。入口から中へ入ると、大ホールには大きな鐘と中央の奥に小さなパイプオルガンが置いてあるのが見えた。その横には、セルスの像が建っている。
魔術学園は、基本的に魔術が発現した13才以上の子供が入学する学校だったが、今では社会人入学の枠もあり、希望するものは学園長の面接後に入学の可否が伝えられる。
「殿下は今年、王立学園を卒業したんですよね?」
「うん。また新しい学問を学べるなんて嬉しいな。王族なんて身分がなければ、ずっと学園に通っていたいくらいだ」
「さすがですわ。ラインハルト様は、学ばれるのが、お好きなんですね。では、王族でなければ、学者を目指されていましたか?」
「学者か──それもいいけど、私は民を愛しているからね。国王を目指すよ」
「応援してますわ」
「ありがとう」
殿下が私へ微笑んだ時、後ろから少年のような声が聞こえた。
「お久しぶりです、殿下」
「君は──」
後ろへ振り返ると、グレーの髪色に紫色の瞳をした少年が立っていた──コンラッドだ。攻略対象者四人目のコンラッド・エスタークは、この学園の学園長息子だ。大賢者セルスが学園設立後に、エスターク家が学園の経営を引き継いだと、以前に殿下から話を聞いていた。
「コンラッドか。大きくなったな」
「ありがとうございます。あの、そちらのお方は……」
「はじめまして。レイラ・フレイアと申します」
「はじめまして。コンラッド・エスタークです。それじゃあ、あなたが殿下の――」
「婚約者だ」
殿下は私の前へ一歩出ると、庇うように手を広げた。一方、学園長の息子であるコンラッドは、目を丸くし、面白いものでも見るかのように、殿下と私を交互に見ていた。
「驚きました。初日から、牽制されるとはね。ふふっ……。レイラ様、愛されてますね」
「えっ? いえ、これは違くて……」
「レイラ、何が違うんだ?」
「いや、だから、その……」
「仲がよろしいんですね。ごちそうさまです。僕、もう行きますね。ああっ、僕も今年から魔術学園へ入学することになったので、よろしくお願いします」
コンラッドは、そう言って大聖堂の奥の部屋へ入っていった。少しして大聖堂の奥のステンドグラスに明かりがついて、より一層明るくなると、パイプオルガンの音楽が流れ始めた。ゲームのサウンド音楽だ──バッハの名曲だった気がするが、タイトルが思い出せそうにない。
ゲームの始まりの鐘の音が聞こえた気がした。殿下には、正式にフィリップが護衛につくだろう。それでも、私は私で殿下や殿下の立場を守らなければならない。
かりそめの婚約や、殿下の元にやってくる攻撃に命を張るのは気が引けたが、これも運命だと思って受け入れるしかない――パイプオルガンの音楽を聴きながら、これから始まる学園生活に、私は思いを馳せたのだった。




