転移魔術
「勝手に他国と繋がってしまうと、国の脅威になりかねないからですか?」
「それもありますが、転移魔術陣はセルスがもともといた国とも繋がっていると言われています。何らかの魔術を使って、その国には転移できないようにセルスが細工をしたようなのですが、それがなんなのか、私達には分かりません。それに、たまに別の場所に転移してしまうこともあるようなのです。その場合、すぐに指定場所へ戻る必要があります。自分以外のものが別の場所へ転移した場合は、もともと転移陣に設定してある引き寄せ魔術を使って、なるべく早く自分の転移陣へ戻さなくてはなりません」
「転移魔術を使える人は、限られているのですよね?」
「ええ、高度な技術が必要になりますし、私の他に使えるのはオリベール魔術師団長と国王陛下ぐらいだと思います」
「たった三人?!」
「王都に限った話になりますが、私が知っているのは二人だけです。転移魔術は使えないはずなのですが、間接魔術を送ってくることは可能みたいで、呪いの魔術を殿下のもとに送ってくるようなのです」
「転移陣からですか?」
「それも、よく分からないのです。原因が分からないら、おそらく転移陣から来ている──そう結論づけたようです」
「他国の人は転移陣を使って、この国に来ようと思わないのでしょうか?」
「それが――古い文献なので、分からないのですが他国の人間は、どうやら魔術を使えないようなのです」
「魔術を使えない?」
「分かりません。ですが、そこでもし魔術が使えるのであるならば、今ごろ状況は違っているでしょう。もっと魔術師がいれば、調査も捗るのでしょうが、国内の戦えそうな魔術師は全部で200人もいません。魔術陣をそのままにして、様子を見守るのが我が国では精一杯です」
「何だかよく分かりませんが、とても大変だと言うことだけは分かりました」
「それで充分です。魔術訓練の時に、また詳しく話しましょう」
「はい。先生、あの――」
「何ですか?」
「何年か前に、先生と転移したときに、別の場所へ飛ばされたことがあったじゃないですか。あれは、別の国に飛ばされたということですか?」
「そうとも限りません。この国の別の場所の可能性もあります」
何年も前だから、覚えていないけれど、たしか石碑には、メルドリ共和国と書いてあった様な気がする――先生の話が本当なら、私はこの国ではない、どこか別の場所へ飛ばされた可能性があると思った。
「危険なのに、転移魔術を使われるのですね?」
「使わないと、それはそれで今後に支障が出てしまいます。他の二人は城を離れることが出来ない役職のため、今は私が仕事と仕事の合間に設定が変わっていないか、確かめているのです。あの二人――引退したら、今までの分もやって貰うんだから」
「ふふっ、先生はお二人と仲がいいんですね?」
「レイラ様。何か誤解しているようですが、腐れ縁ですよ。私が魔術学園で、生徒会長を務めていた時に、二人が生徒会へ入ってきて、大変だったんです。しかも、彼らが入って来た後は、誰も生徒会をやりたがらなくなってしまって──それまでの仕事が倍増してしまったのです。その上、彼らはいるだけで、ほとんど仕事をしなかったですし」
「陛下とオリベール魔術師団長は、学生時代、随分やんちゃしてたみたいですね」
「やんちゃの枠に、収まればいい方よ」
先生は懐かしそうに目を細めていた。先生本人は、気がついていないのだろう。いつもより優しい顔つきをしていた。
そういえば、先生に子供はいない。先生は魔術学園を出て、伯爵家に嫁いだあと一体どんな生活をしていたのだろうか――何となく気になったが、聞くことは出来なかった。




