喫茶セトカ
「わぁ、おいしそう」
期間限定の塩レモンのマドレーヌは売り切れになっていたので、私は別のケーキを頼んだ。ドーム型のムースの中にシロップ漬けにしたフルーツが入っているらしく、ドームのてっぺんには、ポッキーみたいなお菓子に、紙で作ったと思われる国旗が巻きつけられたものが斜めに刺さっていた。その隣には音符の形をしたチョコがのっている。
「助けてもらったお礼。好きなだけ食べて」
「ありがとうございます。ラインハルト様は、お召し上がりにならないのですか?」
「今はそんな気分になれなくてね。ごめんね」
「いえ、そんな――私、先に本を取ってきます。殿下はこの間の続きでいいですか?」
「大丈夫だ」
「持ってきますね」
私は席を立つと、2階にある本棚のあるスペースへ向かった。1階の個別スペースでティータイムを過ごしていたが、2階は共用部分だ。他の客の邪魔にならないよう、すぐに戻るつもりだったが、本棚の位置が変わってしまったらしく、探すのに手間取ってしまった。よく見れば、タイトル順ではなく、作者順に並べ替えられている。
「どうしたの?」
振り返ると、そこには殿下がいた。優しいアーモンドの瞳で私を見つめている殿下の柔らかい雰囲気にのまれて、私は殿下に見とれてしまっていた。
「あの、その、場所が変わっていて……」
本棚の周りにいた人たちは、殿下が来たことに気を使ったのか、自分の席へ戻っていた。本棚と本棚の間に立っていると、殿下が近づいてきて、追い詰められるようにして柱の陰に後ずさった。その場所は窓やテラス、そして2階にある席からも死角となっていて、他から見えない場所だった。
「前回来た時に、私が作者順に並べ替えてみるのはどうかなって、提案したせいかな? ごめんね」
「いえ、殿下が気にされるようなことでは、無いと思います」
「私は、まだ頼りないかな?」
「え?」
「この4年間、勉強や政治以外にも剣術に精を出していたんだ。それなのに、オキュロスを見た瞬間、身体が動かなかった。いつも君に助けてもらってばかりで、本当に情けないよ」
「そんなことは……」
そんなことはないと思う。でも、何て言って励ませばいいのか分からなかった。殿下の血のにじむような頑張りを知っているからこそ、下手なことは言えなかった。
「レイラはトリッシュのことが気になっているの?」




