オリベール博士の発明品
私は窓際に置いてあった椅子に座ると、窓から花壇に咲いている色とりどりの花々を眺めていた。しばらくすると、地面からキューブの形をした魔術具が出てきて、庭に水を撒き始めた。スプリンクラーのような役割を果たす魔術具は、庭を3回ほど旋回すると、いつの間にか元の場所へ戻っていった。
「すごい……」
私は、知らず知らずのうちに感嘆のため息を漏らしていた。魔術を使えるものは多くはない。王都の人口は1000万人だが、その中で魔術を使えるのは1パーセントにも満たない。
詳しくは知らないが、城に仕える魔術を使える人間は、100名くらいだと聞いている――魔術師は、王族や貴族に仕える人が多く、もともとが平民であることが多い。
私達の国では魔術に目覚めたら、やむを得ない場合を除き、国へ届けなければならないという決まりがあった。
そのままにしておくと危険だという事もあったが、魔術を使える者には、兵役が発生する。城で最低でも1年間は魔術師として、働かなければならない。
もちろん、お給料も出るから、平民の中には手に職をつけられるからといって、喜んで兵役に参加して、そのまま魔術師の道を歩む人もいるし、もともとの仕事があるからといって、1年で辞めていく人もいる。
しかしながら、魔術に目覚めるタイミングは人によって違い、人それぞれだ。あまりいないが、妊婦さんや老人が目覚めてしまう場合もある。
その場合は国に申請し、許可を得て魔術具に込める為に使う魔石や、戦闘の際に使うとされている魔力水に魔力を注ぐことで、兵役を免除されると聞いている。
ただ、その場合は1年ではなく、期間が3年になるという。中には子供が幼いことを理由に魔術を使えることを隠していたり、知られたくないと言って、城で秘密裏に石だけ受け取って、自宅で魔石に魔力を込めて後で持って来る人もいる。
「そうですか? あれは、おじいさまが発明した物らしいんですよ」
急に部屋に現れたリトッシュに驚きながらも、私は久しぶりに会えたことが嬉しくて、なぜ彼がここにいるのか、不思議に思わなかった──だって、異世界だ。魔術が使える世界なら、何だってありだろう。
「リトッシュ様?! 久しぶりですね。おじいさまというのは、オリベール博士のことでしょうか?」
「おじいさまは、何でも出来たんだ。風と土の魔術を、少ししか使えない私とは大違いさ」
「そんなこと、ありませんよ。この間は、風魔術を使って浮遊魔術を本屋の店主へ見せていたではありませんか。本を読んですぐ出来るなんて素晴らしい才能だと思いますわ。それに、来年から学園に通える年齢になったとはいえ、私達はまだ子供ですもの。これから勉強すれば、もっともっと成長できますわ」
「ぷっ……。まだ子供って、自分で言うの?」
「あ……」
私は前世の記憶から、自分が子供であることを、いつの間にか強く意識してしまっていた。確かに子供ではあるが、子供が子供であることを強調するのは、さすがにおかしい。
「まあいいや。レイラ様も学園に入学する予定なの?」
「そうよ」
「じゃあ、そこで会えるね」
「ええ……」
「……」
ゲームでは、何故か王太子であるラインハルト殿下も通っている。ミーアがいない上に、アイラの押せ押せムードに少し気が滅入っていたが、リトリッシュが話し相手になってくれるのであれば、学園でも少しは息がつけそうだ――そんな風に考え事をしていたら、気がつかなかった。頭上に彼の手が伸びて来ていることに。
「え?」
「レイラも頑張ってるよね、また学園で」
「ええ?」
私が驚いている隙に、彼は部屋から出て行った。私は撫でられた頭を抑えながら、再び考える羽目になった。
もしかして、もしかしなくても、リトッシュの好感度が上がった?! 一体どこで──混乱していた私は、気がつかなかった。扉の隙間から、こちらを伺う人がいることに。




