アイラの幸せ
「なんで私が──まあ、いいわ。せっかくだから、教えてあげる。私はお父様の事業をいくつか継承した後、ブランドショップを開こうと思っているの」
「ブランドショップ?」
「素敵な衣服やアクセサリーを売るお店よ。昔から自分のお店を持つのが夢だったの。その夢が叶うなんて、本当に夢みたい」
「それがアイラ様の幸せ?」
「ええ、そうよ」
「……」
はっきりと物申すアイラ様に、私は頭を抱えた。悪役令嬢って、こんなキャラだっけ? 殿下の婚約者は、本当に私でいいの?
「断罪されて死刑なんてまっぴらごめんだわ。修道院も嫌。だから、今は経済の勉強を死ぬ気で頑張ってるの。死ぬ気で頑張れば、悪事に手を染めなくても、人間なんとかなるものよ」
「アイラ様、好きな人はいらっしゃらないのですか?」
私がそう聞くと、アイラ様は鋭い目つきで私を睨んだ後、視線を落として頬を染めながら首を横に振っていた。
「おりません。今は修行中の身ですし、悪役令嬢に恋愛は必要ありませんわ。それでも、お金と権力があれば、いつか振り向いてくれる男性がいるかもしれないと思っています」
「金と権力についてくるような男性でいいのですか? アイラ様、本当は気になっている方がいらっしゃるのではありませんか?」
「い、いないわよっ。そんな人」
顔を赤くして俯いてしまったアイラは、分かりやす過ぎる。これでは、好きな人がいると公言しているようなものではないか――悪役令嬢として、それ以前に貴族の令嬢としてどうなんだろうと、アイラの後ろに控えていたベインに視線を送ると、彼は咳払いをしていた。
「アイラ様、レイラ様には正直に話してみてはいかがでしょうか? お強い方が、お好きなんでしょう?」
「いえっ、私は――断罪されなかったら、公爵家のために尽くすと決めておりますの」
「フィリップ様が、お好きなんですよね?」
「フィリップって、まさかフィリップ・カルロス?!」
「好きじゃなくて、推しなんです……」
蚊のなくような声で答えたアイラを見て、私は婚約者の立場を押しつけられた身なのに、なぜ人の恋愛事情を聞かされているのだろうと、疑問に思いながらも話を聞いてた。
「剣に優れた方と聞いておりますわ。人柄もいいですし、素敵な方だと思います」
「素敵な方……」
「ええ、素敵な人だと思います」
「そう言えば、以前に図書館の前でぶつかった時も、嫌な顔をせずに落とした本を拾っていらっしゃいましたわ」
「なに、そのイベント?」
「イベント?」
イベントって、フィリップとの図書館イベント? フィリップストーリーを真面目にやってなかったから分からないけど、図書館でいい雰囲気になると、キスをされるっていうイベントのことかしら?
「婚約者がいるのに、他の方とそういう関係になるような人だとは思いませんでしたわ。失礼します」
「ちょっと待って。誤解だから!」
私の言葉を聞かずに、アイラは部屋を出て行った。侍従のベインも、アイラの後を追って出て行く――完全な誤解だったが、どうしようもなかった。
「どうしよう、ベイル」
「致し方ありません。あの方が癇癪を起すのは、昔からのようですし──レイラ様。よろしければ、ダンスの授業を受けられますか? まだ先生が帰ってなければ、お願いすることは可能だと思いますが」
「──そうね。お願いするわ」
後でアイラへ手紙を書いて、誤解を解こう──そう思ったが、ベイルが部屋を出て行った後、私は何とも言えない気持ちになり、花壇の見える窓際へ行って外を眺めていた。




