婚約
『やっほ――レイラ様、元気? 敬語とかよくわかんないから、不敬だったらごめんね。同じ内容をアイラ様に送ったんだけど、わたし好きな人と婚約したから、そのお知らせです! なんか聖女とか学園とか、みんな訳の分からないこと言ってたから、一応言っといた方がいいと思って手紙を書きました。婚約して今はハッピーです。魔術とか、今のところ発現してないし、聖女とか、誰からも言われてないから分からないんだけど、たぶん人違いだったんだと思う。なんか、ごめんね。聖女が近くにいたり、情報があったら、また手紙を送るので情報料よろしくです」
私は取り落としてしまった手紙を拾うと、再び床へ投げつけた。
「何なの?! しかも聖女、がめつい」
「レイラ様、落ち着いてください」
「これが落ち着いて、いられるわけないでしょ! 私はどうなるのよ。とりあえずの婚約者だったのよ」
「ああ、とりあえず設定ですね。いっそのこと、本当の婚約者になってみては、いかがです?」
「冗談じゃないわ。これから現れるのよ、聖女は」
「私見ですが、聖女はもう現れないのではないかと」
「なんで?」
私が鼻息も荒くベイルに詰め寄ると、ベイルは眉間に皺を寄せて、少し困った顔をしながら答えていた。
「ですから、その噂では、聖なる乙女でないと聖女になれないと言われています。だから、もしかすると──もう聖なる乙女では無くなったのではないかと……」
「婚約者と、そういう関係になってしまったってこと? まだ12才よね?」
「年齢は関係ありません。平民は早くに結婚する者も多いそうです。我がカルス国では、女性が結婚できる年齢は16才からですが、平民の平均結婚年齢は13だそうです。法律上は結婚できないから、とりあえず婚約という形になるようですが、婚約段階で既に一緒に住む者も珍しくないそうです」
「一緒に住んでても、まだそういう関係じゃなくて、聖女の力が発現してないだけかもしれないわ。その可能性も、あるんじゃない?」
「かなり希望的な、ものの見方ですね」
「ベイル、ひどいじゃない。さっきから否定的な意見ばっかり」
「お嬢様が、感情的になって物事を冷静に見れてないだけです。少し冷静になってください」
「うるさいわね、分かってるわよ」
聖女の王太子殿下ルートが消えた今、私はどうなるのか――否、どうするべきか。
「真面目に、殿下と結婚する可能性が出てきたわね」
「レイラ様は、4年前から王太子殿下の婚約者ですよ」
私は主人公のミーアが学園に来ないとなると、どうなるのだろうかと考えを巡らせていた。私は、R-18版のラブ・メーター──つまり、ラブメ18はやっていない。そもそも通常版とR-18版では設定が違うのではないかと思い始めていた。
「誰か別の人物が出てくるのかも」
「レイラ様? 誰かとは誰ですか?」
「それが分かれば苦労はしないわ」
「はぁ……」
「もう、いいじゃない。今日は考えすぎて疲れたわ、もう寝ましょう。おやすみなさい、ベイル」
「おやすみなさいませ」
私は明かりを消すと、ラブメの悪役令嬢について考えを巡らせながら、眠りについたのだった。




