里帰り
私とラインハルト殿下が婚約して4年が経ち、私は12才になっていた。その間、何度も領地へ帰ろうとしたが、やれ出席しなければならないパーティーが入っただとか、陛下が領地へ視察へ行くから王都にいて殿下を守って欲しいだとか、何かと理由をつけられては引きとめられていた。
「はぁ……」
ゲームの物語が始まるまで、あと1年あるが気が気じゃなかった。あと1年で殿下の元を離れなければならないと考えると、憂鬱だ――そう考えている自分自身に気がついて驚いた。
私は窓際に並べらている空き瓶を見てため息をつき、鏡に映る自分を見てため息をついた。
空き瓶は、ラインハルト様と城下町へ行った時に、一緒に買ったお土産用のお菓子を食べた後に残った空き瓶である。ラインハルト様は、休みの度に私を誘っては、視察という名目のもと、町で一緒に買い物をしていた。
買い物には自分のお金を使っていたようだが、どこかで距離を取るべきだと思っていた。けれど、殿下の瞳に見つめられると、金縛りに遭ったみたいに、たちどころに動けなくなり、いつの間にか頷いている自分がいた。
「家に帰ろうかな」
「では、私もお供します」
「ベイル、いいの?」
「私はこの数年、お嬢様にお仕えして決心いたしました。私はこの先の未来を、お嬢様の側で一緒に見させていただきたいと思うようになりました。すでに旦那様にも、そう伝えてあります。そういう訳なので、お嬢様の力で、この先の未来も切り開いていってください。陰ながら応援させていただきます」
「ありがとう、ベイル」
「誠心誠意、お嬢様にお仕えさせていただきます」
ベイルの言葉は、ありがたいと思っていたが、所詮私はモブキャラだ。主人公には、かなわないだろう。
私は、怖いのだ。目に見える形でされて結婚を提示されて、結ばれてしまう未来が。私は言い知れぬ不安を抱えたまま、領地へ帰ることを決めていた。
「でも、いいの? ベイル。伯爵邸の執事にもなれる有能なあなたが側にいてくれるのは心強いけど、執事になった方が、お給料はいいんじゃない?」
「私のやりたいことは執事になることではありません。有能な主人にお仕えし、その身を捧げることです」
「有能?! 有能かどうかは分からないけど、かなりの過大評価よ。まあ、その気持ちに応えられるよう、これからも精一杯努力するわ。生き残るためにもね」
「はい」
ベイルは何故か、この数年で私のことを崇拝するようになっていた。何故かはよく分からないが、私の生き方が気高く誇らしいと言うのだ。貴族らしくないというベイルの言葉に、私は眉根を寄せながら話を聞いていた。
「生き残るために、領地へ帰るわよ」
「はい、お嬢様。王家には適当な理由をつけて、帰らせていただきましょう」
「お願い」
ベイルの計らいによって、私達は4年ぶりに実家へ帰ることになったのだった。




