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殿下の嫉妬

「何も聞いてないわ」


「たぶん、急な予定が入るといけないから言ってなかったんだろうけど」


「ええ?」


 フィリップの言葉に狼狽えていると、頭上に手が伸びてきていることに、気がつかなかった。


「フィリップ、それまでだ」


 いつの間にやって来たのか、私の後ろには殿下が立っていた。殿下はフィリップ・カルロスの手首を正面から掴むと、彼を睨みながら言った。


「私のレイラには誰にも触れさせない。たとえ、それが友人であっても」


「レイラ様を放っておいて、何を仰るかと思えば」


「レイラは渡さない」


「あー、はい。私は稽古があるんで帰らせていただきます」


 彼が去って行くと、殿下はため息をついていた。疲れた横顔を不思議に思って眺めていると、視線が合って微笑まれてしまった。


「レイラは、どうしてここに?」


「あの、図書館へ行こうと思いまして」


 私は渡り廊下の先にある図書館を見た。殿下の顔が近くて直視できない。ゲーム内に推しキャラなどは特にいなかったが、彼の彫刻のような美しさは、近くでずっと見ていると心臓に悪かった。


「何をしに?」


「あの、歴史の本を探そうと思ったんです。オリバ先生の本は少し難しくて、もうちょっと分かりやすい歴史書を探そうかと……」


 尻すぼみになってしまった私の声に応えるように殿下は微笑んでいた。私の肩に手を置いた彼は、しゃがむと私と目の高さを合わせながら言った。


「それじゃあ、私も一緒に探していいかな」


 何も言えずに頷くことしか出来なかった私を見て、殿下は再び微笑んだ。


「行こうか」


「はい」


 私は目の前に差し出された手に手をのせると、殿下にエスコートして貰った。8才の私に何か思ってる訳ないから――自分にそう言い聞かせながらも、高鳴る胸の鼓動だけは、抑えられそうになかった。




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