ベインとベイル
その日の午後、王太子殿下が目を覚ましたという知らせを受けて、私は再び殿下の部屋を訪れていた。医師や侍従が、せわしなく殿下の回りを動き回っていたが、私が部屋へ入ると潮が引いたように、全員部屋から去って行った。いや、二人きりにしないで欲しい。
私の思いを余所に、殿下はベッドの上から、こちらを見て微笑んでいた。
「久しぶりだね、レイラ。こっちへおいで」
私は殿下の手招きに吸い寄せられるように、側へ寄っていった。
「おかげんは、いかがですか?」
「レイラが治癒してくれたんだってね。ありがとう、おかげで良くなったよ」
まだ具合が悪そうではあったが、元気になったのは本当みたいだ。昨日は土気色だった顔が、今日は赤くなっている。
「私の力だけじゃありませんわ」
私がそっぽを向いて答えると、殿下は私の頭を撫でていた――そういえば好感度が上がると、攻略対象者に頭を撫でられるんだっけ? 婚約破棄される予定の私が、好感度を上げても仕方ないんだけどね。
「そうかもしれないね。でも私は、自分の病気が良くなったことよりも、君が来てくれたことの方が嬉しい」
「……」
私は殿下の優しい笑顔に、吹き出しそうになっていた――訂正。鼻血が出そうになっていた。この優男、爆弾発言が過ぎる。家のためとはいえ、8才の少女を全力で落としにかかるのは、やめて欲しい。正直、心臓が幾つあっても足りない。
「大丈夫?」
顔を赤くして天井を見ている私を心配したのか、殿下は起き上がると上から私の顔を覗き込んでいた。目を瞑った殿下の顔を見て、前世のゲームに出てくるスチルを思い出すと共に、あることを思いだしていた。
(そうだわ、ベインとベイルって……)
乙女ゲーム「ラブメーター」は私が大学生になった時、R-18版が出た。大学に入ると同時に入院することになった私は、両親にR-18版のゲームが欲しいなんて、さすがに言えずに、お見舞いに来てくれた友達に話を聞くことで満足していた――確か、R-18版では侍従がベインだけじゃなくて、ベイルも出てくると言ってたような気がする。
「そうだわ!」
何故かずっと目を瞑っている殿下を押しのけると、私は庭を見に近くの窓へ走った。攻略対象者は、ラインハルト殿下とリトッシュの他に、騎士団長の息子と、学園長の息子がいた気がする。それとは別に、隠しキャラが――いた!




