教会の音楽
放課後になると、私は図書館へ行くと言って教会へ向かった。何となく嘘をついてしまったが、後でいなかったとベイルにバレたら叱られるだろう。
入学式が行われた教会は、いつでも誰でも入ることが可能だった。教会の人はいたりいなかったりだったが、いれば話を聞いてくれる。
私は教員室の隣にある教会の両開きの扉を開けると、正面のパイプオルガンを見つめた。すると、誰もいないのに音楽が流れ始めた。曲名はベートーヴェンの「運命」だ。
「レディトリア!」
私が小さな声でオルガンへ向けて聖魔術を放つと、キラキラとした粒子が舞い、何かが消えていくのが分かった。見えざるものと違って、その何かは悪いものではないようだった。
「何か御用ですかな?」
「すみません。この間、聞こえてきた曲が何だったのか思い出せなかったので、ここへ来れば分かるかなと思ったんです」
「それで、何か思い出せましたかな?」
眼鏡を掛けた背の高い教会の人は、目が細かった。愛想笑いをしていたが、笑うとさらに目が細くなるので、ほぼ線になった目を見ながら言った。
「いいえ、でもいい曲ですね。約束がありますので、私はこれで失礼いたします」
約束なんてなかったが、なんとなくそう言ってしまった。扉を閉めようとすると、彼がため息をついているのが聞こえた。
(何かしら? 寄付を期待していたとか?)
教会を出ると、入り口から教員室を見た。教会の建物と校舎にある教員室は隣接していた。教員室にある窓と教会の窓を開けておけば、音楽は聞こえてくるだろう。
「失礼します」
教員室へ入ると、私はオリバ先生を探した。
「あら、レイラさん。どうかしましたか?」
「先日、先生の気分が悪そうだったので、様子を見に来ただけなんです。よければ治癒術も出来ますが……」
オリバ先生の席へ行くと、私は先生の様子を見ていた。課外授業の時は顔色が悪かったが、今は調子がよさそうだ。
「心配をかけてごめんなさい。もう大丈夫です」
「そうみたいですね。少し空気の入れ替えをしてもよろしいですか?」
「え? ええ……」
私はオリバ先生のデスクの先にあった窓を開けてみた。微かではあるが、教会の音楽が聞こえる。
「この窓は、普段閉じているんですか?」
「そうよ。あまり開けることはないわ。でも閉めてても、たまに音楽は聞こえてくるの」
私が音楽を聴いていたことに気がついたのか、オリバ先生は眉を顰めるとそう答えていた。
「そうなんですね。うるさくないですか?」
「たまに、そう思うこともあるけど、だいたいは放課後とか休日だけだから……。教会の人と揉めたくないし、たいていの先生は聞き流していると思うわ」
「お忙しいところ、ありがとうございました」
「いえ、お勉強がんばってくださいね」
「はい、ありがとうございます」
私は窓を閉めると、オリバ先生へ挨拶をしてから教員室を出たのだった。




