鉱山へ行く計画
それからしばらくして、王宮で鉱山へ行く計画が立てられた。陛下発の案だったが、誰も行きたがらず、計画だけが宙に浮いた状態になっていた。
「見えざるものは、封印されたんだ。父上が行かないのなら、私が行くべきだろう」
洞窟の事件があった二週間が過ぎた頃。放課後に図書室で偶然会った殿下と勉強をした後、一緒に寮へ帰った。いつものことだったが、寮への帰り道で鉱山の話になり、殿下は急に鉱山へ行くと言いだした。殿下の言葉に私は慌てたが、殿下が行くというなら私もついていくべきだろう。
「私も、お供します」
「レイラは行かなくていいよ」
「なぜですか?」
「なぜって、鉱山は男所帯だって聞くし、崩落とか――危険だろう?」
「セルスの言葉が解明されていない今、殿下が無暗に動くのは危険だと思われます。もともと私が殿下の護衛だとお忘れですか?」
「もともとってことは、今は違うのかな?」
殿下は私の手を掴むと引き寄せた。きっと、今は護衛じゃなくて婚約者だと言いたいのだろう。
「今も昔も護衛です」
「ふふっ、真っ赤だね」
殿下は私の額にキスをすると、手を離した。
「揶揄うつもりはなかったんだ。ごめんね」
後ろからベイルとフィリップもついて来ている。他の人が見ているのに、こういうことをする殿下は人が悪い。
「……それで、洞窟の歴史書の謎は解けましたの?」
「分からないよ。なぜエスターク家が王立図書館に保管してある歴史書と同じものを保管しているのかも分からないし、理事長にお願いしてリストをもう一度貸してもらったんだ。タイトルとか、年代とか――何か意味がないか色々調べてみたんだけど、何も分からなかったよ」
「うーん、でしたら洞窟の本棚を荒らした犯人は目当てのものが見つからなくて、八つ当たりみたいな感じで部屋を荒らしたんでしょうか?」
「どっちかって言うと、本来の目的を隠すためなんじゃないかな?」
「本来の目的を隠すため?」
「今、私達は本のタイトルとか内容に気を取られているだろう? そうなるように犯人が仕向けたってことじゃないかな?」
「じゃあ、もしかすると本来の目的を悟られないようにしたってことですか?」
「ああ。私達が悩んでいることこそが、犯人の思うつぼなんじゃないかな?」
「じゃあ、なにも考えずに私達が洞窟へ行って思うことって何でしょうか?」
「……古い珍しくない本を、大事保管していること?」
「でも、昔の家系図もありましたよね? あれは珍しくないんですか?」
「貸してもらったリストにある本は、全て王立図書館にあるものと一緒だったよ。本が貴重って意味では、洞窟にあった本は全て初版本だったみたいだけど」
「ラインハルト様、覚えてる範囲で構わないのですが、初めにコンラッド様から受け取った資料と、理事長から受け取った資料は同じ内容でしたか?」
「ああ。全て覚えている訳ではないが、一緒だった。違うところと言えば、理事長から受け取った資料の方が発行年月日とか奥付とか、より詳細に書かれていたことぐらいかな」
「そうですか……」
「レイラは何が引っかかってるの?」
「引っかかっているというか、なんというか……。うまく言えませんが、他に何もないのに、洞窟にある本を見るだけ見たっていうのは、何かが不足しているみたいに感じるんです。本以外の何かが大切なんじゃないかって思いました。だって、王立図書館に全てあるなら、隠して保管する必要もないですし……」
「そうだよね。それは私も気になってた。何もないのに、事件が起きてかえって気になってしまったというか……」
「隠された暗号とかあると思います?」
「どうだろう。なにもなさそうだったけど――着いたね」
話に夢中で気がつかなかったが、いつの間にか寮の前まで来ていたようだ。
「はい。ありがとうございます、ラインハルト様」
「うん。またね」
そう言った殿下は、後ろからついてきていたフィリップと一緒に帰って行ったのだった。




