治癒魔術
「殿下……」
城の侍従に案内されて、殿下の部屋に入ると、ベッドのすぐ側には侍医と思われる初老の男性が立っていた。白衣を着ており、手には懐中時計の形をした魔術具を持っていた。
「レイラ様でございますね? お待ちしておりました」
「あの、私は少しだけ魔術が使えるというだけで、そんなすごい魔術は使えないんです」
「少しでいいんです。殿下に寄り添う様な治癒魔術を、行っていただけないでしょうか?」
ベッドを見ると、殿下は眠っているのか目を閉じていた。閉じた瞼が震え、苦しそうにしている様子は、見ているこちらも苦しい気分になってしまう。
「それは――構いませんが」
「お願いします」
私は医師と場所を交代すると、殿下へ向けて手を翳した。殿下の眉間にシワを寄せた顔を見ながら、殿下の震えが少しでも治まるように願いを込めながら、オリバ先生から習った治癒魔術を行う。
「レディトリア!」
殿下の身体は白い光に包まれ、身体の中から黒い蒸気な様ものが浮き出て消えていった。
「おぉ……」
近くで見ていた医師は白い光に驚いたのか、腰を抜かしている。
「うっ……」
ゆっくりと目を開けた殿下は、私へ向けて手を伸ばした。
「レイラ……。最後に君に会えてよかった」
「殿下、気を確かに!」
私は伸ばされた手を掴むと、必死に励ました。
(あれ? こんなシーンあったけ? 今ここで死んでしまったら、主人公とも会えないし、意味ないんじゃない?)
「……」
「……」
殿下は目を閉じると、息を吸い込み──吐き出した。しばらくすると、いびきの様な音が聞こえてくる。
「眠っておられるだけのようです。危険な状態は脱したとみて、問題ないでしょう」
いつの間にか傍に来て、殿下の様子を見ていた医師の言葉ホッとしながらも、私は何かに違和感を感じていた。とても大切なことだったような気がする。
――バンッ
そう考えていた時、ドアを破る勢いで部屋の中へ入ってきたのは、黒髪黒目の少女――この物語の主人公である聖女ミーアだった。
「殿下はどこ?」
「どちらさまですか?」
「聖女よ」
「はぁ? 殿下は、お休み中でございます。安静にしなければいけません。ご退出願います」
医師の言葉を信じられないのか、少女は眉間に皺を寄せて、難しい顔をしていた。
「え、もしかして必要ない? 村から歩いて来たのに……。これじゃ、意味ないし――って、ええ? あなたは!」
「え?」
自称聖女の言葉に、私は何も言えずに呆然としていたのだった。




