洞窟の先の本棚
「みんな、大丈夫?」
殿下がみんなへ声を掛けると、床に倒れていたフィリップとリトッシュ、それから二人の上に乗っかっていたベイルは、慌てて起き上がっていた。
「す、すみません。大丈夫ですか?」
ベイルがフィリップに手を差し出すと、彼は手を掴んで起き上がっていた。
「ああ、仕方ないよ。あの転移陣を抜け出せてよかったと思う。よく壁の先に通路があるって分かりましたね」
「壁画の右半分だけ色褪せていたんです。だから、右半分だけ酸化が激しいんじゃないかと思って。空気が表と裏から当たれば、いくら壁画でも、劣化が進んでおかしくないと思いましたし――ほとんど直感なんですけど」
「レイラはすごいね。魔術だけじゃなくて、本質を見抜く力がある」
殿下に褒められて、私は少し恥ずかしくなり俯いてしまった。
「それにしても、ここはどこなんだ?」
全員が立ち上がったところで、私は壁画の奥にある暗い通路を見つめた。
「レイラ様、私が先に参ります。ファイアホールド!」
ベイルが魔術を放つと、火は塊のまま真っすぐ伸びていき、正面の壁の手前で止まると数秒で消えた。数メートル先で行き止まりになっているようだったが、炎に照らされた壁の少し手前に部屋みたいなものがあることが分かった。
「部屋?」
通路の少し先の左手には、小さな部屋があった。部屋の中へ入ると、左右の土壁に木の棚が取り付けられており、その棚の上には巻物などが積み上げられていた。
「なんの部屋なんだ?」
殿下が中へ入ろうとすると、今度はフィリップが殿下を止めた。
「殿下。私が見て参りますので、ここから動かれませんように」
「ああ。すまない、頼む」
フィリップは部屋の中へ入ると、棚に置かれた書物や巻物を手に取り、中を読んでいた。
「歴史の本のようですね。賢者セルスが生きていた、ずっと以前のものが置かれているようです」
「歴史の本?」
私達も中に入ると、フィリップが手にしていた本を覗き込んだ。そこにはこの国の成り立ちが書かれていた。
「まさか、これ全部?」
私は棚に並べられた1000冊以上の本を眺めた。
「洞窟の中にいた賢者セルスは、この中へ入って欲しくなさそうでした。この中に書かれている何かを、知られたくなかったのではありませんか?」
「一体、何が……」
「それにしても、1000年以上前の本がよくこんなに綺麗な状態で残っていましたね」
リトッシュの言葉に全員が振り返った。
「な、なんですか?」
「そうよね。1000年以上前の本がこんな状態で残っている訳ないわよね」
私は少し黄ばんだ巻物を手にすると、中を眺めていた。少し黄ばんでいるだけで、中の紙は実家にある古い書物よりも綺麗な状態だった。
「レイラ様。書物に魔術が掛けられているのではありませんか? それなら、この本の状態も頷けます」
「ええ。それでも、ずっとこんな状態を保つのは不可能よ。誰かが管理していたのならともかく……」
その時、棚の奥から人が現れた。
「君達、何をしてるの?」
その人物とは、昨日も会ったコンラッドだった。




