頼みごと
次の日の朝。学校へ行く前に、殿下のいる寮へ向かった。昨日のことを話すために、登校前に寮の前で待っているだけだったが、学校へ向かう生徒に不思議そうな顔で見られてしまい、いたたまれなかった。数十分が、一時間のように感じられる。
「おはよう、レイラ。戻っていたんだね」
「おはようございます。ラインハルト様」
「珍しいね。あ、いや嬉しいんだけど――フィリップもいるからさ」
「おはようございます、レイラ様。どうか私のことは空気だと思って気になさらないでください」
フィリップが爽やかな笑顔で、そんなことを言うから、ついつい笑ってしまった。こんなに存在感のある護衛を、空気だと思うことは出来ないだろう。
「あの、今日はラインハルト様とフィリップ様にお願いがあって、こちらに伺ったんです」
「レイラ、歩きながらでもいい? そろそろ行かないといけない時間みたいだ」
さっきまでいた生徒達も、校舎へ向かったのか周りには誰もいなかった。右斜め後ろにはベイルが控えている。
「はい、大丈夫です。すみません、お忙しいところ……」
「私は構わないよ。それで、どうしたの?」
「それが、セルスの夢を見まして……」
「セルスの夢?」
そう言えば、セルスは具体的なことは何も言っていなかった。洞窟に何か手掛かりがあると決まったわけではない。それなのに、危険な洞窟へ殿下に「一緒に来てください」と言っていいのか躊躇ってしまう。
「……」
「レイラ、どうしたの? 何でも言って」
「ごめんなさい、ラインハルト様。私の思い過ごしかもしれないんですけど……」
私は賢者セルスの夢を見たところから、あの洞窟で何かヒントを得られるかもしれないと考えたところまで殿下に説明した。
「そう……」
殿下は難しい顔をした後に、顔を上げると私に言った。
「よく話してくれたね、レイラ。今日は、生徒会を休みに出来ると思うから、一緒に洞窟へ行ってみよう。何もなければ、それにこしたことはないし」
「ありがとうございます」
私がそう言った時の、殿下の顔はすごく嬉しそうだった。ベイルの言ったことは、本当だった。やはり、ベイルは優秀な侍従だ。
「じゃあ、また放課後に」
「はい」
殿下と校舎の入り口で別れると、それぞれ教室へ向かったのだった。




