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ハッサの街

 次の日の朝、私は馬車に乗って実家である辺境伯爵領へ向かった。転移陣が使えないため、どんなに急いでも家に着くまで二日かかってしまうがそれは仕方がない。馬車には、いつも通り侍従のベイルが乗っていたが、私は家族に会えるということで胸がいっぱいだった。


「お嬢様。今日の夜は、ハッサの街に泊まりますからね。街へ着いたら、このローブを羽織ってください」


「分かったわ。ベイル、ありがとう」


「どういたしまして」


 私はローブを受け取ると、窓の外を眺めながら馬車のガラス戸に映る自分の顔を眺めていた。金髪に金色の瞳は、確かに珍しい。誘拐されても、おかしくない洗練された洋服と髪型を見て私はため息をついた。


「変な顔……」


 悪役令嬢と瓜二つの顔だなんて知りたくなかったし、思い出したくもなかった。いくら眺めても、この顔は好きになれなかったが、最近は他のクラスの子が私とアイラを間違えなくなった。


(単に慣れたのかしら? それとも、顔に変化があったとか?)


「う……」


 私は自分の顔の頬を両手で挟むと、別の顔に見えるか手で両頬を押しつぶしていた。


「レイラ様。何を――」


「ん?」


 私が両頬を挟むのを止めると、ベイルは慌てた様子で言った。


「まさか、レイラ様に自虐趣味があったとは思いもよりませんでした」


「違うわ。ベイル、何を言っているの? それより、私って何か変わったかしら?」


「お嬢様はお変わりになられましたよ。魔術だけでなく、マナーまで上達なされて、あれほど嫌がっていた殿下との結婚も今では前向きに考えていらっしゃる」


 話しながら感情が高ぶってきたのか、ベイルは胸ポケットから白いハンカチを取り出すと、自分の涙を拭いていた。


「大袈裟ね。私は、自分の顔つきが変わったのか知りたかったのよ。最近アイラ様と間違われることが少なくなったから……」


「さようでございましたか……。顔は変わっておりませんが、顔つきは変わったかもしれませんね。それに風格が出てきた」


「風格?」


「ご自分では、あまり分からないかもしれません。それは、レイラ様が成長なさったということですよ」


「そうかしら? 自分では何も変わっていないように思えるんだけど……」


「さあ、レイラ様。街へ着きましたよ。ローブを着てください」


「ええ……」


 腑に落ちなかったが、私はベイルから受け取ったローブを羽織ると馬車の外へ出た。この街で金髪に金色の瞳の人間は珍しい。それほど豊かな土地でもないので、たまに泥棒が出るし、ときどき誘拐事件も起こるので安全な宿に泊まりたいところだが、街に自警団や騎士がいないため、いくら高くて護衛のいる安全な宿に泊まっても、セキュリティ面においては他の街に比べてレベルが低かった。




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