出逢い
ある晴れた日の昼下がり。私はお父様に連れられて城へ来ていた──いわゆる、社交界デビューである。
「フレイア伯爵様と──ご息女のレイラ様ですね」
「ああ、私の娘フレイアだ」
「承知いたしました。こちらへどうぞ」
王都の城から招待状が届き、今日は王太子殿下の誕生日パーティーへ参加するために城へ来ていた。王太子殿下には、ディストリア公爵家のご息女であるアイラ・ディストリアという婚約者がいる。今日は公爵令嬢のお披露目ということもあり、初めて同い年の女の子に会えると思って、私は密かに楽しみにしていた。
パーティーが始まるまでの間、城の控え室で待っていた私達だったが、パーティーは時間になっても始まらなかった。
「アイラ、どこへ行くんだ?」
「お手洗いに行ってくるわ」
「案内してもらいなさい」
「はぁい」
城の中を少し歩いてみようと思ったのだが、お父様に見つかってしまった。散歩へ行けないことを残念に思いながら歩いていると、廊下の先で私は見てはいけないものを見てしまった。
いくつもの部屋の前を通り過ぎた先にあるバルコニーで、少女が身投げをしようとしていたのである。
(うそでしょ?!)
思わず立ち止まり、唖然としていた私だったが、側にいたメイドは即座に助けを呼びに、どこかへ行ってしまった。
バルコニーから身を乗り出している彼女自身の行動にも驚いたが、それよりも驚いたのは彼女の顔だった。肩まで伸ばした金色の髪に金色の瞳――私と瓜二つ。私とそっくりな顔をした少女は、苦痛に顔を歪ませながらも、私の顔を凝視して固まっていた。
その瞬間、私の頭は割れる様に痛くなり、その場にしゃがみ込んだ。
「うっ……」
乙女ゲーム、悪役令嬢、婚約破棄――どれも聞いたことのあるような言葉が脳裏に浮かんでは消えていく。知らないはずの言葉が脳内に蘇り、私は以前に生きていた時の記憶を取り戻していた。
「あ……」
私は前世の高校時代に、夢中になってやっていた乙女ゲームを思い出していた。
乙女ゲーム『ラブ・メーター 赤い糸~真実の恋の先に~』というゲームに出てくる登場人物が、私が知っている人物と同じ名前だったのだ。
「え?」
──というより、目の前にいる彼女も、そのゲームに出てくるキャラクターに違いない。
「危ない!」
私の顔に驚いたのか、身を乗り出していた彼女は掴んでいた手摺りから手を離していた。私は咄嗟に手を差し出すと、彼女の手を掴んだ。その瞬間、彼女の身体は空中を風にのるようにして移動し、床へ着地した。
「──ありがとう。あなたは?」
「申し遅れました。私、フレイア伯爵家のレイラと申します」
「声までそっくりなのね、驚いたわ」
「私もです」
「さっきのは魔術?」
(しまった! 魔術を使えるのは、対外的には、まだ秘密にしていなさいと言われていたのに、無意識の内に使ってしまった──でも、人助けだもの。後でちゃんと説明すれば、お父様だって許してくれるはず)
「少しでしたら、魔術は使えますの。我が伯爵領は国の防衛ライン。幼い頃より、武芸に励んでおります」
「まあ。武芸まで? フレイア伯爵家に強い者が多いと、王都に住む私も心強いです」
「あの、私が魔術が使えることはご内密にしていただけると助かります──恐れながら、ディストリア公爵家のアイラ様とお見受けいたします。アイラ様が、何故このようなところに?」
彼女の容姿から、ゲームに出てくる悪役令嬢のキャラクターだということは分かっていた。私が話を逸らすと、彼女は頭を抱えて座り込んでいた。
「……」
しかしながら、ゲームには私のような、アイラ・ディストリアにそっくりな伯爵令嬢は出てこない。ゲームにすら出てこない、モブですらない私が、公爵令嬢と瓜二つというゲームのバグの様な現象に頭を抱えたいのは、私の方だと思った。
「うっ……」
「アイラ様、いかがなさいましたか?」
私が考え事をしていると、アイラ様は涙を流しながら唇を噛んでいた。悔しがるのではなく、人生に落胆しているような様子は、どう見ても悪役令嬢には見えなかった。
「私は、どうせ死ぬんだわ……」




