藍猫旅行記 その1~三姉妹戦争祭り~
ファンタジー世界に住む、藍色猫獣人娘の日常です。藍猫は、旅の思い出をエッセイにして、街の雑誌に寄稿しています。
今回は「三姉妹戦争まつり」について書いているようです。
人生とは旅である。
旅に、成功も失敗も無い。
見たいものを見に行く。
やりたいことをやってみる。
傷は、勲章。
トラブルは、土産話。
泣いて、笑って、日々を過ごそう。
いつか死ぬその日まで。
春の夜の夢のごとし。
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藍猫「こんな雨の日は、なんもやる気がでないよー。」
白い鳥「まぁ、たまには、ぼーっとするのも大事だよ。
身体も休みたがってるだろうし、頭も、ぼーっとすることで、脳内を整理整頓してるんじゃない?
こんな日は、エッセイの原稿でも書いたら?」
藍猫「んー。」
羽ペンの先をインクで濡らし、悩みながら、とりあえずペンを走らせ原稿を書いてみた。
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こんにちは。藍猫です。みなさんお元気ですか?
今回は、カクウノ都市の「三姉妹戦争祭り」のお話をしますね。
先日、仕事で蛸壺遺跡に行きました。その道の途中に、大きな祭があると聞き、帰りによっていきました。
昔にあった大きな戦争を再現するというお祭りです。
広大な土地で、当時の建物も用いて、歴史的な戦いを再現している様子は、圧巻でしたよ!
現地住民の皆さんが、ボランティアとして参加し、甲冑などを着て隊列を作り、(安全な模造品の)矢を放ったり、武器で戦ったり、魔法戦をするというのが、メインイベントのお祭りです。
芸術都市でよく行われる「薔薇の王女達(もしくは「三つ巴の薔薇」)」という歌劇をご存知ですか?
エスカルゴ・オズワルド作のこの劇は、この戦争が題材となっています。
歌劇のあらすじはこうです。
昔々、ある所に、善良な羊飼いの夫婦がおり、美しく聡明な男の子を授かりました。
男の子は成長し、文武両道にたけ、騎士になりました。
その国には、三姉妹の王女達がいました。
長女が赤バラ、次女が黒バラ、末の王女が白バラと呼ばれていました。
騎士は、出場の身分が低いため、末の白バラ姫の騎士となりました。
ところが、その超イケメン騎士に熱烈な恋し、自分の手元に欲しい、姉の赤バラと黒バラは、大軍勢を白バラ姫の城塞に送り、騎士を差し出せと脅します。
なんやかんやあって、ピンチにおちいった白バラ姫。
絶体絶命のその時!
騎士が姫をかばい、白バラ姫の代わりに騎士が凶刃に倒れます。泣けますねー。
騎士を失った王女達は、すっかり意気消沈。
愛する人を殺してしまった自分達を嘆き、姉達は、王位を末の姫に譲ります。
白バラ姫は、悲しみを胸に王位に就き、後三代続く、女系末子継承制の王朝が生まれたのでした。
めでたしめでたし。
カクウノ都市は、この歌劇の聖地として、ファンに愛されるようになりました。
ところが、歌劇はあくまでもフィクション。史実とは、異なるようです。
史実によると、男は、騎士ではなく、吟遊詩人だったそうです。
そして、末姫ではなく、王宮付きだったそうです。
イケメンで、かなりのプレイボーイ。彼から、姉王女たちに積極的に近づきました。
歌劇では、王女達はバラの名前で親しまれていますが、これも脚色。
三姉妹やカクウノ都市と、バラは全く関係ありません。
第一王女の年齢は20代後半、第二王女は20代前半、吟遊詩人は20歳前後、第三王女は10歳くらいだったそうです。
史実ではこうです。
第一王女と、第二王女は、吟遊詩人とそれぞれ恋仲になり、王位継承と男をめぐって骨肉の争いになっていきます。
身の危険を感じた吟遊詩人は、第三王女の城へ、かくまってもらえるようにと、自分を売り込みに行きます。
幼い三の姫にとって、年が離れたこの男は、やっかいな争いの火種でしかありません。
ふたりの姉王女から、身柄を引き渡すように書簡が届くので、三の姫の勢力は、悩んだすえに、国境近くの塔に男を幽閉。
男は早い者勝ちで争奪せよ。と姉達に返信しました。
吟遊詩人をめぐって、姉王女達の軍勢は激突。吟遊詩人は、戦禍から逃げたものの、王家を傾ける俗物だと、地方貴族の配下に切り捨てられます。
心身も、軍政も、評判も、疲弊した姉王女達の勢力を、貴族連合が後盾についた三の姫勢力が一掃。
姉王女達は幽閉の後、処刑され、上級貴族が主権を握り、三の姫をまつりあげた傀儡政権が樹立したのでした。めでたしめでたし。
…やっぱり、歌劇のほうが、お話としては、面白いかもしれませんね(苦笑)
お祭りに話を戻しましょう。
歌劇「薔薇の王女達」の影響で、祭の期間、街はバラで彩られます。
バラ製品がめじろ押し!香水、ジャム、砂糖漬け、炭酸飲料。バラづくしです。
かぐわしい香りで、商店街はいっぱいです。
香水などの香りが苦手な、敏感な鼻を持つ人は、気分が悪くなってしまうので、注意が必要です!
戦争を再現する「戦争跡地」のエリアに近づくと、羊飼い出身の男の影響で、羊料理を中心に、屋台からこうばしい匂いが。
伝統的な「羊肉とジャガイモのスープ」もいいですが、近年ではシチューも定番。
私は、子羊の香草焼きと、香草酒の炭酸割りをいただきました。香草とニンニクとスパイスで味付けされ、パリッと焼けた肉。爽やかな香草酒。うんまいッ!!
羊の丸焼きも、ところどころで見られます。イベントとして、羊の毛刈り大会も別日に開かれます。
屋台で食べ物を買い込み、戦争跡地エリアの観覧席に向かいます。
有料の観覧席は取れなかったのですが「雑誌ノクターナルに寄稿しています。ぜひこのお祭りを紹介したいです。」と運営に交渉したら、関係者席を譲ってもらえました。やった!!
「カクウノ都市三姉妹戦争」の再現は、1日だけのダイジェスト版。日の出から日没まで、多くのボランティアさん達が、軍隊の仮装をして、軍進行を再現します。
私は、特に目玉の3時間を目当てに、観覧席に向かいました。
観覧席は、多くの人で埋めつくされています。
ミリタリーマニアや、歴史オタクにも人気な祭りだそうで。ゴザを引いて地面に座りこんでいます。日傘は使用不可なので、日差し避けの帽子や、フードや、スカーフが必需品です。有料席(と関係者席)は、椅子があります。双眼鏡を持ち込む人も多いです。今年は曇り空で、過ごしやすい日差しでした。ラッキー♪
ボランティア軍隊の衣装は、本人達の私物だそう。遠目から見る限りでは、なかなかよくできています。
軍隊戦は圧巻でした!
安全に矢の雨を見るのは新鮮だし、騎兵隊はカッコいいです!大砲の空砲は迫力があります。
白兵戦はコミカルでした。
両軍どこか楽しそうで、素人の演技が微笑ましいです。
突撃や攻撃の際、相手が怪我をしないように、少し優しく武器を振っています。倒れる戦死者や、とどめを刺す・刺される戦士が、特にノリノリで、見てて面白かったです。平和だなぁ。
魔法戦は一見の価値あり!!
現地の魔法学校の生徒による、魔法戦は大迫力です。魔法使いの両軍が、攻撃魔法や障壁魔法(の見た目をしているだけで効果はない幻影魔法)の打ち合いをしているのには、胸が高鳴りました。
魔法を打ち込まれ、歩兵達が吹っ飛ぶ演技をした時には、素人演技の微笑ましさに、会場に笑いが生まれてました。
観覧していると、隣の見知らぬおじさんが、いろいろ解説してくれました。いわゆる「玄人おじさん」ですね。
ボランティアも、装備の質や、都市住まいか外部住まいかなどで、レベル分けがされます。レベルが高いと観客席の近くの軍に配備されるそうです。
「あそこが第一王女の隊で、そっちが第二王女の隊。前線が激突している時に、森に潜伏していた第三王女の軍が、両軍の本営を、ガッっていっちゃうのよ!」
玄人おじさんは、軍の動きだけでなく、お祭りの裏話も教えてくれました。
魔法戦に、オーケストラの演奏をつけようと主張する団体がいて、うるさいそうです。
また、史実を元に戦争を再現していますが、「歌劇」の世界観でやって欲しいという勢力が、年々力を増しているそうです。
「史実に忠実であるべき」という「史実派」が、歌劇の世界観を求める「歌劇派」を退けてきましたが、そろそろ無視できなくなってきたそうで。近々、歌劇の世界観に寄せた、戦争再現になるのかも。
日没とともに、戦争も終わりに近づきます。
塔から、こそこそと逃げていた吟遊詩人は、駆けよる騎兵隊に気づき、逃走しますが、逃げられません。命乞いもむなしく、切り殺されます。
玄人おじさん「あの吟遊詩人は、プロの役者を雇ってるのよ。」
二人の姉王女達が捕まり、縄で縛られ、処刑台へ。実際は、数年幽閉されるのですが、お祭りでは、処刑まで話を進めるようです。
末の姫の戴冠式をもって、長く大がかりな祭のメインイベントは、幕を閉じるのでした。
玄人おじさん「三の姫役は大人気で、倍率が高くてよォ~。以前、貴族のババアの選挙不正が発覚して、街全体が険悪な空気になったもんだね!翌年、町民の女の子が当選した時には、街中盛り上がったもんよ!!」
数日盛り上がる大規模な祭り。
伝統的な衣装で、歩き、踊る住民の皆さん。展示される当時の鎧や武器類。
街を歩けば、歌劇の有名曲の弦楽器のしらべが。
世界のどこかに、そんな街があるのだと想いを馳せてもらえたら、少しみなさんの日常が楽しくなるかもしれません。
今回も抽選で、旅先の絵葉書を10名様にプレゼントします。絵葉書を眺めて、空想の旅を楽しんでもらえたらいいな。
また、旅の思い出などを寄稿しますね。次回もお楽しみどうぞ。
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藍猫「んー。こんなもんじゃろ。」
書き上げた原稿を見直し、封に入れ、蝋を垂らして印を押す。
藍猫「これをポストに投函しておしまい!いやー、こんな雨の日でも仕事して、あたしってば、えらいなぁ~!」
原稿を鞄に入れて、カッパをはおり、玄関を開ける。
藍猫「夕飯は、肉がいいなぁ~!買ったスパイスを振りかけたら、うまいかな?」
藍猫と白い鳥は、夕方の風景へと歩きだす。
おわり