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7/10

7 糾弾

来ていただいてありがとうございます!



 


地面がグラグラと波打つように揺れた。


「グラン!落ち着いて!」


人とのハーフとはいえ、グランは大地の大精霊グローリア様の息子だものね。彼の感情は大地に影響を与えるんだわ。グランの力は大地のずっと深い所の力のようだわ。


「な、なんなんだ!むやみやたらに力をひけらかすなんて、やはりお前には品位というものが無いな!」

リーヴァイ様……、腰を抜かしてドロシアに支えてもらってる貴方が言っても説得力がない。ドロシアも何だか嫌そうな顔してるし。大丈夫かしら?精霊の国にいた時はあんなに落ち着いた方だったのに別人みたい。こちらが本性なのかしら?


「あ、あのっ!グラントリー様、よろしければスイレン様を精霊の国へお返しいただけませんか?代わりと言っては何ですが、私がこちらへ参りますから!」


…………はい?突然のドロシアの言葉にグランも私も声が出ない。やっと立ち上がったリーヴァイ様も目をむいてドロシアを見ている。


「実は……水の神様は私をあまり気に入って下さらなくて……。やはりスイレンの方が泉の番人には向いているようなのです!ですから、スイレンと私を交換という事で私をお召しくださいませ」

私とドロシアを交換って何?どこからそういう発想が出てくるの?

「グラントリー様!スイレンよりも私の方がお役に立てると思いますわ。人の世界では社交というものが大切なのでしょう?愛想の悪いスイレンでは厳しいかと……。それに容貌も私の方が優れています。そういったドレスや宝石はスイレンよりも私の方が相応しいと思いますの!」


ああ、そういう事か。さっき再会してから変にドロシアの視線を感じてたけど、どうやら王子の立場だと判ったグランと私が身につけているドレスや宝飾品が気に入ったみたいね。精霊の国にはあまり素敵なドレスは無いの。人の世界の流行りを後追いするか、伝統的なドレスしか着られない。おしゃれ好きなドロシアにはつまらないのでしょうね。


それにグランはとてもかっこいいから。自慢とかじゃなくて、精霊の国にいる時のグランは髪も整えず、簡単なシャツにズボンといった格好だった。今は髪も服もどこから見ても気品のある王子様という姿なのだ。私もお城に来て最初は驚いたわ。この姿なら、精霊でも人間でも女の子達は放っておかないだろうなって思ったもの。


「ドロシア?一体何を?」

リーヴァイ様は戸惑ってドロシアの肩に手を置いた。ドロシアはその手をそっと離した。

「ああ、リーヴァイ様?私も貴方様と離れるのは辛いのですわ。でも精霊の国の為なのですっ!お分かりいただけますわね?」


ドロシアはとても可愛い精霊だ。グランの気持ちが動いたらどうしよう?私はグランを見上げた。その時冷たい表情を見せていたグランがふっと笑った。ドロシアを見てる。ドロシアは嬉しそうにこちらへ来ようとしている。やっぱり私よりドロシアの方がいいのかな?胸が痛い……。




突然グランが声を上げて笑い出した。

「グラン?」

どうしちゃったの?グランは私を強く抱き締めた。そしてひとしきり笑った後、涙を拭ったグランは言い放つ。

「まるで自分の力に不足はないと言いたげだな?笑えるよ。お前ごときがスイレンの代わりだと?お前なんかにスイレンの代わりはできないよ。この性悪精霊」

「なっ!」

あ、ドロシアが今まで見たことが無いようなおっかない顔で睨んでる。あんな顔もするんだ……。愛想が足りないとかよく言われていた私はドロシアの可愛い笑顔が羨ましくて、よく泉で練習してみたりしてたんだけど上手くできなかった。そんなことを思い出していた。


ドロシアを睨みつけたグランは腕を伸ばし手のひらを空へ向けた。

「お前にはスイレンの足元にも及ばない。美しさも、力も、心根の良さも。そこの馬鹿は全く分かってなかったがな」

グランに馬鹿にされたように見られたリーヴァイ様は気色ばんだが、特に何もしなかった。ヘタレね。


グランの手のひらの上の空間に光が集まって何かが出現してきた。

「泥モグラ?」

リーヴァイ様は今度は何事が起こるのかとビクビクしてたみたいで、あからさまにホッとしたような顔をしてた。泥モグラ……ああ、この子がそうなんだ。泥モグラはその名前の通り、泥の中にいるモグラの姿の妖精だ。時々いたずらもするけど、地面をかき混ぜて豊かにしてくれる妖精だ。


「スイレンが祈りを捧げた後の泉を濁らせていたのはこいつだ」

「え?」

「……まあ、酷い……」

グランの言葉に驚くリーヴァイ様と嘆くドロシア。

「しらばっくれるつもりか?ドロシア。こいつを使役してたのはお前だろう?」

「なんだって?本当なのか?ドロシア?」

リーヴァイ様が信じられないという顔をしている。そうだよね。あの愛らしいドロシアがそんなことをするなんて私も信じられなかった。

「リーヴァイ様、私はそのようなことは……」

「なら、こいつに聞くか。そら!」

そう言ったグランは泥モグラを解き放った。


グランは私が精霊の国を離れた後に、泉の様子を調べてくれたの。泥モグラはドロシアの為に泉を濁らせていたらしい。グランは小さな穴から泥モグラが出て来て泉を濁らせるのを見たのだった。その後はドロシアが出て来て泉に祈りを捧げ、澄んだ泉に戻していたという。そして更にその後に泥モグラは精霊の国で採れる赤い木の実をドロシアから与えられていたのだ。簡単なものだけどこれは主従契約なんだって。


解放された泥モグラはすぐさまドロシアに走り寄って行った。木の実が欲しいみたい。精霊の国にある赤い木の実は甘酸っぱくてとても美味しい。けれど妖精は精霊の許可を得なければ、精霊の国へ入ることもできない。だから、ドロシアの言うことを聞いて悪さをしていたんだろうね。

「きゃあっ!ドレスが汚れるじゃないっ!!」

ドロレスは噴水の水を操って泥モグラを弾き飛ばした。

「酷い……」

あの子は約束を守ってただけなのに。

「まずいな……。あそこまで非情で頭が悪いとは思ってなかった!」

グランが焦ってる……?私は思い当たった。妖精は精霊と違って魔物に近いらしい。怒らせてしまうと危害を加えてくるような存在になってしまうのだ。

「あ、契約違反……?」



地面に叩きつけられた泥モグラがむくりと起き上がった。その目が真っ赤になってる。元々は閉じていた目は、今は大きく見開かれてる。かなり怒ってるみたい。可愛らしかった小さな黒い体がだんだん体が大きくなって毛が逆立っていってる。


「このままだと契約者を殺して魔物になってしまう」

グランの焦ったような声に不安が湧き上がる。





耳をつんざく咆哮が響いた。







ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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