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6 夏至の舞踏会

来ていただいてありがとうございます!



ハイドランジア王国では夏至の日は天の神々が降りてこられる日とされている。お城では華やかな舞踏会が開かれ、城下やその他の街や村々、国中で神様に感謝するお祭りが行われる。お城にいてもその賑わいは風に乗って伝わってくる。できれば私も外に出て、街のお祭りを見てみたい。けれど今日はグランと一緒に舞踏会に出るのだ。


「ああっ緊張する……!」

「そんなに固くならなくて大丈夫だよ。練習ではいい感じだったじゃないか」

隣に立ってるグランが励ましてくれるけど、あんなやっつけの練習じゃとても安心できなかった。

「グラントリー第三王子殿下。スイレン様ご入場です」

ああ、遂に名前を呼ばれちゃった!

「行くよ。大丈夫。俺がついてる」

グランがそう言って私に軽く口付けた。


何てことをするのっ?!グランてば!一瞬で頭の中が真っ白になって何も考えられなくなっちゃったよ?





ダンスの後、たくさんの人達とご挨拶してやっと人が途切れた。緊張も途切れてグランの腕にしがみ付いてしまった。

「私、大丈夫だった?ちゃんとできてた?」

「大丈夫だよ。ちゃんと踊れてた。スイレンが一番綺麗だったよ」

「うー。本当?」

私が着てるドレスはグランが贈ってくれたもので、白に薄く水色のグラデーションがかかった綺麗なドレスだ。霧のような薄い布地を何枚も重ねてあってふんわりしたシルエットになってる。雫の形の小さな宝石がたくさんついていて、動くと光に反射してキラキラ光る。滝の水しぶきみたい。唯一色が違うのはイヤリングで小さな深い赤の宝石はグランの瞳を思わせる色だった。そういえばグランの胸に刺したピンもついてるのは白と水色の海の雫っていう宝石なんだって。


「みんな見惚れてた。凄く褒めてたよ。……ちょっと腹が立ったな」

グランが怒ってるのには訳があって、精霊の私との婚約に良い顔をしない貴族達もいたんだって。自分の娘との縁談をごり押ししようとする貴族とかね。

「挨拶に来てくれた人達はみんなにこやかだったよ?」

「まあ、こんな場所であからさまな態度を取るような貴族なら今頃ここにはいないかな」

思ったより人の世界って怖い所なの?

「スイレンは俺が守るから平気だよ。俺の隣で笑っててくれればいいから」

「うん」

グランの顔が近づくけど待って欲しい。ここは舞踏会の会場でたくさん人がいるのだ。それに。

「グラン……私お腹空いちゃった……」

「……プッ。あはははは」

「笑い事じゃないのよ。私ゆうべから緊張して殆ど食べられてないの……」

「それは大変だ。俺のお姫様が餓死してしまう」



グランと私は挨拶に来ようとする人達を何とか避けて、給仕の人に食べ物と飲み物を持って来てもらって噴水のある庭に出た。ベンチに座ってやっと一息付けた。そう思ったその時だった。



「ここにいたのか、スイレン。君がグラントリーなんかと婚約したと聞いてとても驚いたよ。そんなに君を追い詰めてしまったのだね」





そういえばいらっしゃるって聞いてたっけ。今の今まで忘れてた。

「リーヴァイ様、ドロシア」

ああ、せっかくケーキを持って来たのにまだ食べられそうにないわ……。それに今酷いこと言ったわね。ちょっと許せないわ。なんかって何よ!なんかって!前に出そうになる私をグランが止めて私の肩を抱き寄せた。

「あっ」

その力強さに思わず顔が赤くなる。

「ようこそ、我が国の舞踏会へ。精霊の国のリーヴァイ殿。今宵は我が婚約者のお披露目も兼ねております。お楽しみいただけているとよろしいのですが」

あれ?ドロシアは無視?

「……招待感謝する。しかしスイレンは私の婚約者だ。返してもらいたい」

へ?この方何言ってるの?それにいつも穏やかな方で、苛ついたような声は初めて聞くような気がするけど、どうしたのかしら?



「さあ、スイレン。僕は君を許してあげるよ。帰っておいで僕の元へ」

腕を広げるルーヴァイ様。訳が分からない私がおかしいの?

「あの、グラン、私リーヴァイ様が何を仰ってるのか良く分からないんだけど……」

戸惑った私はグランの服をギュッと掴んだ。

「大丈夫だよ。アイツが変なんだ」

小声で囁きあう私達を見てリーヴァイ様が眉を顰めてる。

「そうですわ!スイレン様。わたくしは貴女と一緒にリーヴァイ様をお支えする所存ですわ。どうぞ精霊の国へ帰っていらして」

今度はドロシアが声を上げた。今夜のドロシアは緑色のドレスを着てる。紺色の髪のドロシアには少し明るすぎる色でちょっと浮いてる感じだけど、綺麗な色のドレスだった。この子も何言ってるか訳わかんない。困ったわ。



「無理です。私は大精霊の皆様の前で婚約破棄を受け入れましたし、現在はハイドランジア王国のグラントリー殿下と婚約を結んでおります」

私の話は聞いてくれなかったけど、一応言っておこうかな。


「ああ、可哀想に、スイレン!君は僕に見捨てられたと思い込んだんだね。でも大丈夫だよ。僕はちょっとお仕置きするだけのつもりだったんだ。精霊王様はドロシアと君の二人を娶ることをお許しくださったからね。君はもう十分反省したはずだ。安心して精霊界へ帰っておいで」

あ、やっぱり聞いてくれないや。それにしても今この方とんでもないこととまた意味の分からないことを言ったわね。


「断固お断りします!」

隣のグランが沸々と怒りを溜めているような気がする。だってどんどん私を抱き寄せる力が強くなって密着度が上がってる。


「何故だ?君は僕を愛していたのだろう?」

「いえ、全く」

「そんなはずはない。婚約した当時はあんなに僕に付きまとっていただろう?」

「は?付きまとっていた覚えはございませんわ。普通にお話をさせていただいていただけです」

少しでも仲良くなれたらって一生懸命だったけど、そうか、付きまとっていたと思われてたんだ。

「そのうちに分をわきまえて控えめになったのは素晴らしいが、役割を怠るようになったのはいただけない。人間なんかに興味を抱いたことも」

だから、怠ってないってば!私の話、本当に聞かないんだから。それに精霊の中には酷く人間を嫌う者もいるのよね。まさかリーヴァイ様もそのお一人だったとは。


「私は元々リーヴァイ様を愛してはおりません。そして今私が愛しているのはグラントリー殿下ただお一人です。……それに私はもうグラントリー殿下のものですので……」

いっぱい触れられてしまったし……。もうグラン以外の人のところへお嫁になんて行けないし行きたくもないわ。

「嬉しいんだけど、ちょっとその言い方は誤解を招くんですが?スイレンさん?」

グランが耳元で囁く。ちょっと顔が赤い。可愛い。

「ごめん。なにか間違えた?」

「いや、時間の問題だしまあいいや」


グランと私が小声で囁きあっているのを見て更に苛ついたようなリーヴァイ様が怒声を放つ。

「いい加減にしろ!僕のスイレンから離れろ!!」


グランがスッと無表情になった。

「……誰のスイレンだって?」

遠くで地鳴りが聞こえたような気がする。








ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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