4 月下
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あれから私はお城で読書三昧の生活を送ってる。三食読書付き。中々良い生活だわ。癖になりそう……。実は水源を復活させた褒美だといってハイドランジア王国の国王陛下がたくさんの金貨をくださったのだ。
「これで当面の生活には困らないわね」
ホクホクと金貨の袋を眺めた。ちなみに精霊は精霊の国にいる限りはお金や食べ物を必要としない。でも一度精霊の国を出てしまうと、人間同様の体になってしまう。力はそのままだけど、衣食住の確保が必要となってしまうのだ。不思議ね。人間で言うと力の強い魔法使いって位置づけかな?
何故私がまだこのお城に留まっているのかというと、
「だって、またあのマージョリー王女が難癖つけて迫ってくるかもしれないだろ?」
よっぽどマージョリー王女が苦手らしい。涙目で訴えるグランを放っておけず、とりあえず今度の夏至に行われる舞踏会までは婚約者を続けることになったからだ。国内の貴族のご令嬢達やマージョリー王女殿下をはじめとした周辺諸国の王子達や姫達が招待されてるんだって。
「うちにもまだ婚約者のいない王子や王女がいるから……」
「お見合い舞踏会なのね。王族も大変なのねぇ」
私に用意してもらった部屋でため息をつくグラン。夜風が心地いい、月明かりがさすバルコニーでランプの灯りを頼りに本を読んでたら、私の隣に座って来たのだ。王子としての仕事が無い時や仕事終わった後の夜は私の部屋に入り浸ってこうして愚痴を吐いている。ちょっと鬱陶しい。
「ここでうだってないで、好きな子を口説きに行ったらいいのに」
舞踏会にもその子に来てもらった方がいいんじゃないの?そう思ったけど何故か口には出せなかった。だって舞踏会なんて本でしか読んだことないし、ちょっと楽しみなのよね。……それだけよ?
「…………その本面白い?」
私の言葉には答えずにじっと見つめてくるグラン。その深い赤にも茶色にも見える瞳は炎のようにも見えて思わず見とれてしまった。近づいて来るグランに距離を取ろうとする私。でも座っている長椅子はそんなに大きくない。すぐに追い詰められてしまう。
「う、うん」
「見せて」
グランは私を抱き寄せ、一緒に本を覗き込んだ。背中があったかい。
「ふうん、南部で作られてるガラス細工の本か」
「ちょっと、グラン?ち、近すぎない?本を読みたいなら貸すから……」
「この本はもう読んだことあるからいい」
思わず閉じてしまった本を渡して離れようとしたけど駄目だった。今度は正面から抱きしめられた。
「グ、グラン?何してるの?」
「言われた通り口説こうかと思って」
「はい?」
「このまま俺の傍にいてくれない?スイレン」
耳元で囁かれて胸がドクンと鳴った。顔が熱くなる。胸に抱いた本を取り上げられてしまう。
「あ」
グランとの距離がなくなってしまった。頬を摺り寄せられて頭が真っ白になる。
「グラン?」
掠れる小さな声でやっと言えた言葉。こつんとおでこがぶつかる。
「透き通った肌が薄紅に染まって綺麗だ」
グランの顔がものすごく近くにある。今まで見たことがない程優しい瞳で見つめられて、目を逸らせない。
「ずっと好きだった」
あたたかい…………
唇が優しく重なった。
人生(?)初の告白とファーストキスという一大イベントを終えたグランは疑問に思っていた。
この反応……もしかしてスイレンも初めてだったのか?
抱きしめたスイレンの体は震えている。おかしい。精霊の国では結構長い間リーヴァイの婚約者だった。二人が婚約した最初の頃は二人の関係は良好で、ずっと悔しい思いをしていたのだ。
「……もしかして、初めてだった?」
おずおずと問いかける。
「当たり前でしょ?私は精霊なのよ?人間にはこういうの当たり前なのかもしれないけど……」
真っ赤な顔で自分から目を逸らすスイレンは滅茶苦茶可愛い。衝動的に押し倒すのを我慢した自分を褒めてやりたい。そんなことをして嫌われるのはご免だ。
スイレンは誤解してる。人間も精霊も愛情表現は同じなのだ。つまりはスイレンはリーヴァイに手を出されていない。実際リーヴァイがドロシアに口づけているのを見てしまったこともあるから、リーヴァイにそういった欲が無いわけではないだろう。グランはリーヴァイに少し、いやほんのちょっと、爪の先程度なら感謝してやってもいいかなと思った。だがすぐにスイレンを蔑ろにしていたことへの怒りが湧き上がる。
もうお前には絶対に返してやらない。スイレンは俺がもらう。
とにもかくにも想いは告げたのだ、後は押して押して押しまくろう。グランは純粋なのか不純なのか分からない強い決意をしたのだった。
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