隣国の王太子がパーティーで婚約破棄して国が危機に陥っているらしいので、ちゃんとした手続きを踏んで婚約解消したいと思います
やあ、こんにちは。
ベネッセラル王国の王太子、クリス・ネオ・ベネッセラルだよ。
実は最近、婚約者であるペネロペ・フォンデュ公爵令嬢が、侍従と恋に落ちたらしくてね。
僕としては妹のような存在のペネロペの初恋を応援したいんだ。
ということを側近のガトラに相談しているところなんだけれど。
「それは、婚約解消をしたいということで間違い無いですね?」
「ああ」
「……婚約解消の方法にはお気をつけて下さい」
とのことなんだ。
なんでも、数ヶ月前に隣国の王太子が非のない公爵令嬢に冤罪をかけ、平民を妃にするとかなんとか卒業パーティーで大々的に宣ったとか。
「レスタージウス様の廃嫡は勿論、妃にすると言われた平民は王太子を誑かしたということで処刑、更にレスタージウス様だけでなく、他の貴族も誑かしていたようで、誑かされた方々も廃嫡、しかも平民はかなりの有力貴族の子息ばかりを狙っていたようです」
「あー、もしかしてだけど、その平民ってさ、俺も前に会ったことあったり?」
「しますね。城下町で会った方だと」
「やっぱあいつかー」
名前は、ええと……リス?リサ?なんかそんな感じだった気がする。
前にあっちの王家がベネッセラル王国に来た時に、城下町の視察にレスタージウスとお忍びで行ったんだよね。その時になんかレスタージウスに話しかけてきた奴がいたんだよね。なんか友達らしいから一応挨拶したらレスタージウスが三人でまわろうとか言い出してさ。そしたら用を足すとか話しかけられたとかでレスタージウスもちょっと俺らから離れることもあるじゃん?そしたらさ。
『クリス様は笑顔がかっこいいですね』
とか言ってきてさ。最初は、へー。俺の王侯貴族スマイルはかっこいいんだなー、とか思ってたんだけどさ。気付いたの。初対面で笑顔褒めるって、おかしくね?って。だって、自分でいうのもなんだけど、俺って顔面偏差値滅茶苦茶高いの。普通だったらまず俺の容姿を褒めるよなって思ってそいつの顔よく見たら、目が爛々と輝いてやんの。あっ……て思った。
しかも二人になったタイミング見計らって両手掴んでなんか言ってきたしさ。俺、他人に触られるの嫌いだからそっちに意識がいって何にも聞こえなかったけどさ。
というかレスタージウスも戻ってきたら俺睨んで「なんもしてねえよな?」って圧かけんのマジでやめて欲しかった。
「しかもこれを機に王族を没落させて新たにクリム公爵家を頂に置いた公国にしようとかなんとかで貴族が謀反を起こしているらしいです」
「終わったな、あいつら」
俺もあそこの王族嫌いだったんだよなあ。すっごい下に見てくるのがイラっとするのだ。でもまあ、クリム公爵家が新たに治めるとなれば安心だろう。クリム公爵家の婚約破棄されたご令嬢は新たに帝国の皇子と婚約結んだらしいし。頂に立つ後ろ盾は十分だ。
「そんなわけですので、殿下はきちんと手続きや裏合わせをして下さいね。婚約解消をするならば」
「はいはい、わかったよ」
*** *** ***
あれから数十年の月日が経った。
俺は今、王様をやっている。しかも慈王なんていう二つ名も付いている。
ペネロペとはちゃんと手続きを踏まえて婚約を解消したし、侍従と結ばれるのも見届けた。
あれから婚約も結婚もしていないが、跡取りはいる。城の前に捨て子がいたから保護したところ、なんでもその捨て子……ファージが神の寵愛を受けてるとかなんとかってことを直々に神が言いにきて、それをパーティ中に、しかも神が俺の子として育てろって言ったもんだから、ファージは俺の子になり、捨て子を拾ったことが貴族にバレた為、俺は慈王と呼ばれている。
「ちちうえ!けんのうでがあがったとせんせいにほめられました!」
ああ、子供ってマジ可愛い。癒しになる。大人の穢れた話し合いの後に効くわあ。
そういや、馬鹿な王太子がいたどこぞの王国は、今やクリム公国として、国土は少し狭いものの、あの頃より栄えている。うちとはいい貿易相手になっているぞ。
「そうか、流石だな、ファージ。よし、父上はもう少し仕事を頑張ってくるよ」
「はやくおわらせて、いっしょにあそんでください!」
なんだって!これは頑張らないといかんな。天使と遊ぶためなら俺は五倍速で仕事を終わらせられるぞ。
ちゃんとした手続きを踏んで婚約解消をすると、婚約解消した側もされた側も、幸せに暮らせるんだな。