冒険の前に復讐をⅡ
「おい!変質者起きろ!」
ガチャッコ
大きな罵声とともに扉が開く音がした。
作戦を考えながらそのまま寝てしまった俺はその音で目を覚ました。
「先ほど監査官殿がお見えになった。朝食前だがお待たせするわけにはいかないのでこれよりお前を監査官殿まで連れていく。それと脱走などは考えぬことだな我々はもちろん高レベルだが監査官殿は我々を遙かに凌ぐレベルのうえ、魔法も使える。逃げ出した者は八つ裂きにされると知れ!」
俺は眠気眼を擦りながらうつらうつらしながら話を聞いていた。
体内時間的にはまだ早朝5時頃だろう。
脱走なんて考えるわけないじゃないか。
こっちにはとっておきの策があるんだからな…
「そんな恰好で監査官殿の前には連れていけないからこれを着ろ。」
看守から囚人用の服と思われるボロボロの服を貰いその服に着替えた。
見た目はボロボロでシミ汚れがあったが意外としっかりした生地だった。
俺は眠たすぎて終始無言で言われるがままに従った。
その後、男に連れられた場所は2階部分の取り調べ室みたいなところだった。
変わったところがあるとすれば正面の椅子はすごい高価に見えた。
おそらく監査官とはこの世界で地位がとても高い職なんだろうなぁ
「監査官、イーシャ・ライセルス様入室です!」
そんなことを思っていると男の厳かな声が聞こえ、入口が開いた。
最初に男が入室しその後ろから少女が部屋に入ってきた。
その見た目はまさに美少女だった。
身なりがとても良さそうな恰好をしていて、良く騎士とかが着ていそうな制服に大きな鳥の羽があしらわれた帽子をかぶっていた。
身長はおそらく150cm前後で足はすらっと細く長く、腰まで伸びた白髪は神秘的なオーラを漂わせていた。
顔立ちは、幼さが少し出ているがそれを隠すためかキリッとした表情を保っていてそこもまた可愛い。
俺がそんなキモイことを考えていたのが分かったのか、見透かすように。
「おい、罪人よ。変な表情で私のことをじろじろ見ないでもらおうか。無礼だぞ。」
どうやら顔にキモさが出ていたみたいだ。
それにしても声も可愛らしかった。
今まですごく眠かったが可愛さのおかげで目がぱっちり覚めた。
「私の体躯のせいでこちらを見たんでしょうが、こんななりでも今年で20歳になります。 実力の方は言うまでも無くあなた程度なら目を瞑って一歩も動かずに圧倒出来ます。見た目で舐めてかかると痛い目を見ますよ?」
喋り口調は丁寧だけど、なんだかとっても怖い人だな…
てか今年20歳とか俺と3つしか違わないのか、中学生くらいにしか見えねぇよ。
「先ほど聞こえたと思いますが改めて。私が最高監査官のイーシャ・ライセルスです。この町には別件の調査で来ていましたが少し手が空いたので私があなたの取り調べに名乗りを上げました。」
最高?普通の監査官とは何か違うのかな。
すると男がまるで自分のことのように誇りながら説明してくれた。
「変態よ。このお方は監査官の中でも最高の地位にいる。普通はこんなしょぼい案件に出張るような身分の方ではないが、先ほどおっしゃったようにたまたま近くで大きな事件があってな、その合間に今回の取り調べに名乗りを上げてくれたのだ!」
それは運が良いのか悪いのかわからんな。
とにかくこの偉い人をうまく丸め込めれば問題無いってことだな。
「おしゃべりが過ぎますよ。このままあなたにしゃべり続かせると機密情報を漏らしそうで危ないので早速取り調べと行きましょうか」
イーシャはそういうと何かの魔法を唱えた。
「この魔法は簡単に言うと嘘を見破る魔法です、これがある限りあなたの嘘は私には通じませんよ?」
嘘を発見するなんて逆に好都合だ!
本当のことを言えばいいだけ、すべては女神が悪いんだから。
「まずは名前、年齢、出身地に、種族を答えてもらいましょうか。」
名前と年齢は問題ないだろうが、出身地って…東京でいいのかな?
うそ発見器があるなら問題ないか。
種族は人間でいいのかな?他に呼び方ってあるのかな?
「名前は能村翔太、年齢は23歳で出身地は日本という国の東京です。種族は人間?です。」
俺の回答にイーシャの隣に座った看守が記録表みたいなものに書いていった。
「ニホンとは初めて聞く国ですね。どこにある国なんですか?私は一様貴族なので他国の情勢にはそれなりに明るいのですが…ニホンとは初めて聞きますね。」
そんなことを言いながら魔法の反応を確認したのか、浮き出た魔方陣をじっと見つめていたが小声で「反応は無か…」っと言っていたのでどうやら大丈夫そうだ。
「では担当直入に聞きましょう。あなたは故意により全裸でオマールさんに覆い被さり襲おうとしましたか?一応言っておきますがオマールさんとはあなたが襲った女性のことです。」
彼女はまっすぐに俺を見据え魔法の効果だけではなく表情からも読み取ろうとしているみたいだ。
「まずその答えですが、僕は故意でそのような行為をしたわけではなく、全て偶然なんです。そもそも私は女神の強制転移で町の門前にいきなり出てしまい…」
イーシャにこれまでの出来事を話してしまえば嘘なんて一つもつく必要ない。
俺は自分が死にかけてから今に至るまでの経緯を大まかに話した。
「つまりあなたはこことは違う世界の住人で、女神テラ様によりこの世界の邪神を滅するべく送られた使者。この世界に来る道中で女神様の手違いが多発し結果的にこのようなことが起こったということですか?」
俺が説明したことをさらに短くまとめたイーシャは最後の確認といった感じで聞いてきた。
「はい、そうです。なので今回の件は事故なんです。女神様がうっかりさんでして…」
イーシャは終始魔法の反応や俺の表情を観察していたが「ふぅ」と一息つき。
「なるほど。魔法の反応、あなたの表情や反応を見るに嘘偽りはなさそうですね。他にも魔法やスキルの発動を感知する魔道具等を秘密裏に使っていましたがそれにも反応はなさそうですね。その…あなたはこれまで相当な苦労をしてこられたのですね。それに女神がうっかりさんとは驚きです。」
イーシャはそういうと帽子を取り、机の上に置いた。
そして椅子から腰を上げ立ち上がった
「その場の状況が何よりの決定的な証拠だとはいえ、無実の可能性が高い方を収監し取り調べを行ったこと深く謝罪申し上げます。」
イーシャが本当に申し訳なさそうに頭を下げると、周りの看守や兵士が
「待って下さい!この男の言っていることが真実だとは限りません!記憶操作を自分自身に施し今のような状況を作り出した可能性もあります!無実だと決まったわけではなく、現行犯が何よりの証拠ではないでしょうか!?」
「そうです!あなた様が頭を下げるなんて言語道断、ましてや謝る必要すらございません!」
男たちが口々に言うが、イーシャはあきれるように。
「さっきも言ったでしょう?スキルや魔法の発動を感知する魔道具を使っているし私は相手のステータスが見れる魔法も使っている。彼は洗脳も魔法の発動もしていないし受けていない。そもそも隠蔽魔法等の高位魔法を使えるような者であれば、大人しく捕まらずあなた達はのめされていただろうからね。」
イーシャの言葉を聞いた男たちが俯きながらしぶしぶということを聞いた。
「ほぼ確実にあなたは無実でしょうね。50年前にも異世界から女神様によってこの世界に来た人がいると聞いたことがありますし、魔法等の反応を見るにあなたの言葉には信憑性があります。被害者には私の方からきちんと説明しておきますね。それにしてもあなたが“女神が認めた邪神を滅するもの”というのも驚きです。この件の謝罪として私の権限で今日中に釈放できるように取り計らいましょう。」
そういうとイーシャは俺に「今はこんなことしか出来ませんが…」といいその後席を立ち、看守たちに「水浴びと着替えを用意してやれ、その後私の部屋に通してください。」と言ってからこの場を立ち去った。
俺は終始呆然としていた。
女神とか物凄いファンタジーな事を平然と信じるなんて、さすが魔法の世界だ。
しかし俺の他にも女神に連れてこられた人がいたんだな、何が目的だったんだろう?
もしかして俺と同じような邪神を討伐かな?
それだったら嬉しいなぁ、俺は何にもしないで全部その人に押し付けられるからな!
それにしても、昨日睡眠を削って考えた作戦が全く意味の無い物になってしまった……
その後俺は看守の一人に普段夜勤の看守たちが使うらしい水浴び場に案内され監視のもと水浴びを行った。
時代は現代日本よりだいぶ遅れているみたいで、お湯は無く水だった。
本当の水浴びだった。
風邪っぴきの俺にはすごくきつい。
俺は水浴び中、ブルブル震えながら看守にいろいろと聞かされた。
「イーシャ様は我々下々のものにも優しい、ましてやお前みたいな身元もわからん様な奴を権限釈放なんて普通に考えなくてもあり得ない。お前が何かをやらかせば全てあのお方のせいになる。くれぐれも問題は起こすなよ!?」から始まり。
「イーシャ様は最年少で監査官の最高位になりこの国で最も素晴らし監査官の一人だ」とか。
「イーシャ様は魔道を極めし賢者の位」なのだとか。
やれイーシャ様やれイーシャ様と彼女の話題がほとんどだった。
俺が「もう俺のこと疑ってないんですか?」と聞けば「イーシャ様がそう判断されたのだから我々からはなにも無い。多少不満があるものもいるが、本当に多少だ」と
そんなイーシャの自慢話を延々と聞かされながら水浴びを終え、看守が用意してくれたまとまな服に着替えた。
「よし。ではこれからイーシャ様の所に連れていくからくれぐれも粗相のないようにな。」
そういい看守に連れられ、駐屯地から徒歩15分程の大豪邸の前にやってきた。
「ここが監査官達、組織の名前は聖査委員会の詰所だ。ここの最上階の一室がイーシャ様の部屋になる。」
ただの豪邸ではなく、しっかりとした2m以上はありそうな鉄格子の門がありその前には門番が立っていた。
門から建物までは15m程離れており、その間には庭園が広がっていた。
庭園では庭師が3人掛でお花の手入れをしていた。
もちろん建物も大きく、5階建てでお城の小さいバージョンといった感じだった。
町の門前にいた門番より身なりが良いことからこちらの方が警備に力を入れているのが分かった。
俺は凄すぎて「ほへー」っという言葉しか出てこなかった。
てか詰所にしては豪華すぎだろ!貴族の館と同じなんじゃないか??
そんなことを考えながら看守について行き中に入ると1階は受付になっており美人なお姉さんが立っていた。
もちろん中もとてもお金がかかっていそうだった。
「お世話になっております。イーシャ様にお呼び頂き参りました。」
看守が丁寧に受付のお姉さんに声をかけると受付のお姉さんはニコリと微笑みながら答えた。
「はい。伺っております。右手の階段を上っていただき7階のお部屋になります。お手数ですがドアの前で呼び鈴を押して頂きますと係りの者が参りますので身体検査後入室してください。」
結構セキュリティが厳重なんだな…
それほどまでに恨みを買う仕事なんだな。
まぁ罪人を裁いたりする仕事なんてそんなものか。
てか気になることがあったな、7階?5階建てに見えたけど俺の見間違えだったのかな?
俺の考えを見透かすように看守が答えてくれた。
「見た目が5階なのになんで7階?って思ったろ。今じゃ有名な話だが大規模な結界幻惑魔法が建物全体に施されていて見た目が5階の作りとしては10階建てだ。昔の犯罪組織との抗争でこの仕掛けが露呈してしまったので今では誰でも知っているが、その抗争最終局面ではこの仕掛けのおかげで聖査委員会、昔の名前を聖騎士旅団が辛勝したのだ。」
階段に上がりながら看守をそんなことを色々教えてくれた。
他にも、
「ここはもともと聖騎士旅団のクランハウスだったんだ。」
「クランハウス?なんですかそれ」
クランってゲームとかだと冒険者たちの集いみたいな感じだけどそんな感じかな?
「そうかお前はこの世界に来たばっかりだったな。」
看守は「すまんすまん」といい説明してくれた。
「まずクランとは冒険者の集合団体だ、クランに入っている奴もいればソロやパーティーだけの奴もいる、まぁ簡単に言えば個人経営の冒険者ギルドって感じだ。クランハウスとはその会社みたいなものだな。詳しいことは冒険者ギルドにでも行った時にでも聞いてみな。」
やっぱりファンタジーに冒険者はつきものだよな!
保釈されたら早速行ってみよ!
その後も看守が説明を続けてくれた。
「昔は個人経営のクランだったが、過去の功績のおかげで国直下のクランになり、今ではクランから帝国の監査委員という体系に代わり、この国最大の権力且つ最強の組織になったんだ。クランからお国の精鋭部隊になるなんてすごいよな!」
なんと無くしかわからんが貴族のイーシャも属しているのはやはりそういった国の最強戦力だからか。
改めてイーシャの凄さを実感した俺は話しているうちに7階に到着した。
「昔は特別な転移魔法を使わないとこの階に上がれなかったが、不便ということでそれは廃止になったそうだ。」
いろいろと物知りな看守のうんちくを聞いているうちに身体検査が終わり俺たちは部屋の奥に入っていった。
投稿が大幅に遅れてしまい大変申し訳ございません…
仕事が立て込んできまして、家に帰ってはご飯食べて寝る、起きて仕事帰ってご飯寝るのサイクルでして…
執筆が出来る状態じゃありませんでした…←言い訳です。
今回はやっと牢獄から出られました!
いやぁ良かったです。
ちなみに主人公が考えていた作戦とは
「もういっその事罪を認めてみて模範囚として保釈される」
です。
翔太君は作者と同じでおバカなのでこういうことしか考えられません。
異世界を見て回りたい気持ちもありましたが、「適当な間服役してたらいんじゃね?きっとどっかの誰かが邪神討伐をしてくれるよ」精神でもう吹っ切れていました…
他にも「服役中は衣食住が保証されるじゃん!」とかそんな打算ばかりです…
そんなわけで次回からはお外に出られた翔太君はやっと冒険に出られるんじゃないかと思います!
冒険出来たらいいなぁ…
では次回もご一読いただければ幸いです。
次回更新予定:6月24日まで(この投稿から1週間以内)に更新します!早ければ3日程度で行けるかも…
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