怠惰のつけⅢ
それから時が流れるのは早かった、20日になったらすぐ会社に行き、事務作業をしその後パスポートを受け取りに行った。
会社に着いたのは俺が一番早かったみたいだ、今回もスムーズに手続きが行われ他の参加者と会うことなく作業は終わった。
パスポートを受け取った後は企画で俺が用意した方がいいものも思いつかなかったからそのまま帰宅することにした。
8月1日まで暇になっちゃったなぁ
まぁ最後の休み期間を満喫するか!
俺は帰宅後【ウーパーイート】で昼食兼夕食をを注文し、食してからグダグダ過ごすことにした。
8月1日になったこれもまたまたウキウキしすぎて全く寝れなかったてか徹夜ですわ…
朝になったら眠くなるんだよなぁなんでだろうなぁ
最近の生活習慣が原因なのは明らかだが見てみないふりをし羽田空港に向かうことにした。
1時間くらいで現地に到着、俺以外には女性が2人に男が2人だった。
それぞれ可愛くもイケメンでもなく所謂モブ顔だな(お前が言うなって感じだが)。
「お待ちしておりました能村様。これで全員揃いましたね、少し時間がありますのでそれぞれ自己紹介と行きましょう。これから30日間共に過ごすことになりますのでお互いのことは少しは知っておいた方がいいと思いますので。」
俺がついて早速橘さんが進行した。
男の一人が一歩前に出て自己紹介を始めた
「私の名前は山田太郎と申します。年は今年で33歳になります。」
なるほど顔といい名前といいやっぱりザ・モブって感じだな!(全国の山田太郎さん申し訳ございません!)
33歳でこの30日拘束のバイトするってことは…
「皆さんお察しかと思いますが、最近自己都合で退職したしまして現在は無職です。1か月間という短い間ですがよろしくお願いします」
俺の予想が当たったな、彼もブラック企業で勤めていたのだろうか…
続く人たちも似たり寄ったりな簡単な自己紹介を終え俺の番になった。
「えー…皆様初めまして、能村翔太と申します。今年で24歳になります。若輩者ですが30日間よろしくお願いいたします。」
俺も簡単な自己紹介を終えて橘さんが最後を締めくくり、「ではそろそろ搭乗しましょうか」と皆を案内した。
俺らはこれから羽田空港を出てフィリピンに向かう、フィリピンのとある港から潜水艦に乗り込み海底神殿に向かう。
グアムの方が近いのになぁと思ったが会社の工場がフィリピンにしかないそうで、メンテナンスなどのことを考慮してフィリピンから行った方が安全なんだとか。
その辺は俺では全く分からないので聞き流すことにし流れに身を任せることにした。
何日間か掛けやっと潜水艦に搭乗する日になった。
もちろん今まで通りやることが無かった俺はダラダラと不規則な生活をしていた。
なのでとっても寝不足。
まぁレポートとかはもう適当に済ませて高額給与を貰うことにしよう!
潜水艦発着場は大きい工場の地下に存在した。
どういう原理か分からないがこっから海を潜って深海にいくらしい。
俺らが乗る潜水艦シロエ32号はとても巨大だった。
昔テレビで見たことがあるどっかの国の潜水艦より大きいように感じた。
「ではこちらの潜水艦専用服を着用下さい。」
他の面々も感動とか驚きとか様々な反応をする中、宇宙服のようなごっつい服が配られた。
その服には番号がふられており、俺の番号は3番だった。
(同じ服装になるからだれがだれか区別するためのものかな?)
俺は特に気にすることもなく続く説明に耳を傾けた。
「潜水艦だけでも圧力の軽減は十分ですが、念のためこちらを着用ください。」
研究員風の男が説明し俺らは何の疑いもなく着用することにした。
重さは見た目ほど重くはなく日常生活には問題なさそうだ。
顔面のシールドもスモークなどは一切かかってなく山田さん達の顔も透き通って見えていた。
(番号ふる意味をあまり感じないけどな。唯一大変なのはトイレとか食事をするときだろうな、まぁなんでもいいか。)
「ではお一人ずつお入りください。各部屋にご案内いたします。」
俺らはワクワクしながら潜水艦に乗り込むのだった。
やはり中は巨大な空間だった。
案内図を見ると客室がものすごい数(100部屋は超えているだろう)、サウナにプール、バーやレストランまでその他にも色々な施設があった。
しかも利用はすべて無料だという。
どんだけ金をかけてるんだよ…
俺ら如きになんでここまでの待遇なんだろうか?
「各員に通達いたします。これより潜水準備に入りますので、各部屋に待機ください。入室確認でき次第準備を始めます。」
艦内放送が流れた、事前に説明があったがなんでも潜水時は大きな揺れがあるため各自の自室に入らないと潜水が始められないとかなんとか。
俺は自室にいたからそのまま入室確認ボタンを押した。
こちらも事前説明時に聞いていたことだ、このボタンを押すと部屋にロックがかかり入室を確認できるそうだ。
だけどロックが掛かった音がしないけど…
確かめてみると鍵は掛かっていなかった。
なんで部屋にロックをかけるのかわからないけど、まぁ鍵が掛かってなくても入室ランプは点いてるし大丈夫でしょ。考えてもしょうがないし大人しくしてよ
俺はそのまま放置することにしてごっつい服を着たままベッドに寝転んだ
「寝心地最悪だな」
「長らくお待たせ致しました。これより潜水を始めます。」
すっかり寝てしまったみたいだが、時計を見ると2時間がすぎていた。
随分長い間準備してたんだな。
そのまま待っていると“ごぉごごごぉ”と潜水中らしい音と大きな揺れが始まった。
だがそれも少しの間で揺れが納まってきた。
「揺れも納まったことだし艦内を探索するか」
俺はそのまま部屋を出てまずはバーに向かうことにした。
それにしてもなんか騒がしいなぁ
準備の間に技術者関係の人が乗り込んだのかな?
などと考えながら客室が密集する廊下歩いているとT字路に突き当たった。
「お久しぶりですねぇ橘さん今回も本企画無事開催出来そうで良かったですよぉ。さすが橘さんですねぇ」
「いやいやこれもすべて視聴者様方あっての本企画ですからね。今回もドクロの人気企画をご贔屓いただければ幸いでございます。」
角の先で橘さんらしき声と少しだけ高く聞くだけでイラっとするような声の男が話をしていた。
それにしてもドクロってどっかで聞いたことがあるな、マリアナ海溝の神殿探索は人気企画ってわけじゃないなにせ今回が初の試みになっていたはずだ。
俺が怪しんで考えていると
「いやぁほんとぉに楽しみですよぉ金持ちの道楽とはいえ橘さんも大変でしょう。毎回毎回死んでも問題ない社会のゴミを探し出すのわぁ」
「そこは少しコツがありましてね、そのようなゴミは金に飛びつきやすい性質がるんですよ。なので明らかに怪しい広告でも平然と応募してきます。今回は内容が内容だけに応募者数を多かったですが、情報操作も含め何ら問題はございません。ご安心して当社人気企画の1つリアル殺人鬼ショーをご覧ください。」
俺は橘さん達の話を聞いて震えが止まらなくなった。
ドクロという名前も思い出した。
確か都市伝説で有名だった物の一つで全世界の本当の金持ちたちに向けた配信動画サービス、殺人、拷問、出資者の要望に応えなんでも放送するダークウェブのような存在があると聞いたことがある。
このネット社会のご時世でそのようなデマが流れるのはよくあることで信じもしなかったがまさか本当にあるなんて…
俺は急いでこの場を離れなければと思い静かに静かにひとまず自室に戻ることにした。
自室に戻る最中色々なことが頭を巡った
今にして思えば、資金力から始まり、全くの未経験者を募っての海底神殿探索も潜水準備に部屋のロックをかけるのも全ておかしい。
金に目がくらんで後先考えずに進めてしまった自分をぶん殴りたい気分とどうせ海底に進んでいるんだから助かりっこないという絶望間、例え生き延びたとしても仕事もお金もない、仕事は選ばなければなんでもあるだろうが前職の二の舞になるくらいなら…
気が付けば部屋の前にいた、ドアを開け中に入ろうとすると。
「能村さんなんで部屋から出れているんですか?鍵が掛かっていたと思いますが。」
後ろから橘さんの声が聞こえてきた。
その声はいつもより少しだけ低く怒気が混じっているように聞こえた。
「どうやって部屋の外に出たかはわかりませんがまだまだ外は揺れていて危険ですので室内でお待ちくださいね」
俺はその声を聴いて思わず走りだした。
どこに行っても変わらないことはわかっているがそれでもあの人から逃げなければと本能で感じとった。
「能村さんが私たちの立ち話を聞いていることは艦内の監視員からの報告で知っております。私も迂闊でしたね、まさか参加者が室外にいるなんて思いもしませんでしたよ。」
橘さんは余裕な態度で逃げる俺を追っている。
俺は振り返りながら橘さんとの距離を確認するが涼しい顔で追いかけてくるその人はまるで狩りを楽しむ殺人鬼のようだった。
まさか橘さんが殺人鬼役!?
「失礼ですね、人の顔をみてそんな表情をするなんて、お察しいただけましたか?先ほどの会話で出た殺人鬼とは私のことですよ、ふふふ」
橘さんは俺の思考を見透かすように、いや俺の驚愕の表情が物語っていたのかは分からないが不敵な笑みを浮かべながら追いかけてくる。
「せっかくですからあなたが初めの犠牲者になっていただきましょう。幸いにしてカメラは回っていることですしね」
そいうと橘はどこからか鬼の仮面を取り出し顔に装着した。
「さぁ必死の抵抗をしてください!!取れ高が楽しみですね!!」
それから3分が経ち俺の体力が尽きた。
日ごろからゴロゴロしていた俺の体力は小学生並み、もしくはそれ以下だった。
「能村さん…いくらなんでも体力なさすぎじゃないですか?これでは全く盛り上がりませんよ、もう少し頑張っていただきたいのですがね…」
俺は立った3分間走っただけで胸が張り裂けるような痛みを伴いへとへとになり倒れこんでいた。
「はぁはぁ…なんでこんな目に…くそっ」
「なんでと言われてましてもね…ただ単に運がなかっただけではないでしょうか」
橘は平然と言い腰から1丁の銃を取り出した。
「ではこれから能村さんには2つほど選択肢を与えましょう。」
そういうと橘は2本の指を立てながら銃口を俺に向けてきた。
「この銃で少しずつ打たれて拷問されるか再度私から逃げるか…結果は変わりませんが逃げれば逃げるほど視聴率はよくなるのでなるべくなら逃げていただきたいですが…最悪は拷問で稼ぎましょうかね」
すでに体力が尽きている俺はもう何も考えられなかった。
ただ這いつくばりながら殺人鬼から距離をとる。
「そんな体たらくで視聴率が稼げると思っているのです?もっと頑張ってくださいよ、仕方ありませんね、もう少し危機感を出しますか」
その言葉が言い終わると同時に右足がものすごく熱くなった、
「うわぁぁぁ!!いっだぁぁ」
銃で右足を撃たれたようだ。
痛みに悶えながら俺はなおも這いつくばりながら距離を必死に逃げる
「はははは、いいですねその声!いやぁ視聴率関係なくこういうのは私も楽しいですよ。」
橘は本当に楽しそうに笑い俺を追いかけてくる。
(何かないか、この状況を打開できる何かが無いか…)
すると俺は少し先に避難出口と書かれたハッチを見つけた、海底でこのハッチ開けばどうなるかなんて想像に難くない。
どうせ死ぬならこいつらも道ずれにしてやる!
俺は悟られないように気を付けつつハッチを目指す。
きっと俺の力ではハッチは開けられない、ならば撃たせるしかない!
このままではじわじわ撃たれて立つこともままならなくなる。
ハッチ付近に追い詰められたふりをしてそこで一気に飛びかかろう。
銃を奪えればよし、最低でもハッチに撃たせよう。
「はぁはぁ…く、くぅぅ…」
やっとハッチまでついた俺はハッチに背中を預けゆっくりと立ち上がる。
「ふふふ、もう終わりですか能村さん?いやぁ本当に楽しいですよ、少し早いですがそろそろ死んでもらいましょうか…次の準備がありますからね!」
橘はかなり興奮していた、これなら銃は奪えなくても十分にハッチへの誤射を誘導できるだろう。
そう考え俺は早速一か八かで橘に飛びかかった。
「はあぁぁ!!」
「無駄なあがきですね!ですが面白いですよ!」
橘はそのまま数発俺に向けて打ち込んだ。
絶対俺に向けて撃つことは分かっていたので飛びかかるふりをし俺は大きく右に避けた。
「ふふふ、面白いですねぇ銃を見切るなんて本当に面白いですよ。」
俺はすぐにハッチを確認し、作戦の成功を告げるアラームが鳴った。
「ピーロピーロ、避難ハッチに異常が発生しました、ピーロピーロ、避難ハッチに異常が発生しました」
アラームが鳴り響いたのを聞くと今度は俺が不敵な笑みを浮かべる。
「まさかこれを狙っていたのですが…私もまったく素人ですね、とりあえず早いところこのゴミは始末しますか」
そういうと橘は無表情で俺に何発か撃ち込んだ。
「ぐあぁぁ、、い、いだいぃ」
橘は痛みに悶える俺に対し致命傷を与えたからかそのまま放置し背を向けてどこかに去っていった。
「はぁはぁ最後に一矢報いたかな…クッソいてぇ、でも糞会社にいたときの心の痛みに比べるとまだましかもなぁ」
興奮しすぎてアドレナリンがドバドバ出ているせいかはわからないが、それほど痛みを感じなかった。
もうすぐ死ぬのかな意識が遠くなって来た。
するとすぐ近くで破裂音が聞こえた、避難ハッチが水圧に耐えられず破裂したようだ。
物凄い勢いで水が流れ込んでくる。
(これだけの勢いで水が浸入すればあいつらも逃げ切れないだろうな、、)
山田さん達の事はとうに忘れている俺は自分が正義のヒーローであるかのような高揚感を得た。
しかしそれも束の間、俺は押し寄せた大量の海水によってなすすべもなく深海に放りだされた。
潜水用の服を着ていたからかすぐには死ななかった。
だが銃で撃たれた穴から水が浸入し、圧力もどんどん強くなる。
く、苦しい、寒い。。
そして俺は朦朧とした意識の中、深海で光が届くはずがないのに綺麗に輝いていた海底神殿とその横にあった真っ黒な光をも飲み込むような大きな穴を見た。
そして俺はその穴に吸い込まれ意識を失った。
次回の更新は5月27日頃になってしまいます。
仕事が早く終わったりしたらその都度書いて、なるべく早く更新します!
次回もよろしくお願いします!




