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毎度、追い出されそうになるわけですが……

3話ほどで完結します。全て本日中に投稿いたします。

 私の名はジゼル。

 家名なんてない。別に今更欲しいわけでもない。

 ドドド・ド田舎の街で冒険者をしているだけの若者にそんなもの、どう考えたって必要ないのだから。


 私は、私のパーティメンバーと面白おかしく暮らしていける、それだけで満足なのだ。

 もちのろんで冒険者は決して安全な職ではない。

 だが、問題はない。

 何故ならば、このパーティには──。


 おっと、どうやら今はそんな空気でもないらしい。

 なにやらパーティ3人が横一列に、雁首揃えて待っている。普段の彼らを思うとそこはかとなく似合わない。


「今日はこのあとゴリロード酒場に行く予定だったはずだが?」


 かく言う私もリーダーのオッサムに呼ばれてさえいなければ直行するつもりだった。

 全く、全員いるのならそう言えばいいのに困った友人たちで──


「ジゼル、お前は今日限りでパーティを抜けてもらう!」


 あー。

 理解した。


「うん。で、それは何を理由に?」


 理解したからこそ、冷静に対応しようではないか。

 理由次第では、条件付きで考えないこともない。


「り、理由……?」

「理由も無しに出て行けなんて、そんな薄情なことは無いだろう?」

「お、おい、何て打ち合わせしてたっけ」


 雲行きが怪しそうだ。

 いつものことだが、何を考えているのやら。


「ちょとオッサム!あれよ!その、なんだっけフレイルぅ!」

「えっ、わたし!?そもそもわたし今回は反対だから話半分にしか聞いてないよ」


 なぜそこで意見割れしているのか。

 反対なら端からそこに並ぶんじゃあないよ、と言いたいところだ。

 気の知れた仲間とはいえそうやって何がありそうな空気を出されるのは身構えてしまうではないか。


「だぁー!もう今日はやめだ!ゴリロードの酒場行こうぜ、ジゼルも」

「ああ、分かったよ」


 無事諦めてくれたらしいので、私も一緒に行くことにする。

 しかしなぜ私がこんなにもあっさり流すのか。

 理由は単純、これは今に始まったことではないのだ。


 おおよそ1ヶ月に1度、こうしてパーティから追い出そうとしてくるのだ。何をやっているのか分からないと思うが、長年の付き合いがある私にも正直なぜそうなるのか分からない。

 とはいえ別に嫌われているわけでもないらしく、長くても次の日には普通に元の、面白おかしく冒険者稼業を営むパーティに戻っている。


 意味不明に切り替えが早い。


 初めは困惑したものだが、もう慣れた。

 大抵理由も「それ、別にパーティ抜けなくてよくね??」と言うようなもので、加えて内容も私が悪い、とかではない。

 面白いところだと「だってお前、働きすぎなんだよ。ちょっとは休め」なんてのがあったか。

あれは本当に呆気にとられた。


 何であれ悪口を言われるわけでもないので私も彼らを嫌ったりはしない。

 私は彼らと過ごす毎日が大好きなのだ。


 ただ、今までならその理由もはっきりしていたのだが、今回はそれが曖昧。気になるところだ。

 恐らくフレイルあたりは知っていてはぐらかしているだろうから後でそれとなく聞いてみることにしよう。

 彼女は都合の悪いことを誤魔化すが、あまり上手ではない。


 酒もいい感じに回ってきて、そろそろお開きになるかというところ、オッサムが何やら呟いている。

 酔っ払って寝ぼけているのだろう。

 少し耳を近づけてみる。


「ジゼル……お前は…」


 私の話だったか。

 して、私が何だというのか。


「お前はぁ……と──」


 と?


「と──」


 『と』何なのだ。


「くかーー」


 おい。眠ってしまったではないか。

 と思いきや、む?これは魔法の残滓……。

 こんなことが出来る人間を私は一人しか知らない。辿ってみると案の定、フレイルからのもの。


 気付けばもう一人のメンバーであるカーパも眠っており、チラッと視線をやると彼女の目は大変バツが悪そうに明後日の方向へ逃げている。


 そんなにも知られたくないのか。

 より一層気になるところだが、そんな野暮ったいことはするまい。


「──二人を運ばないと。私はオッサムを運んでいくから、カーパを頼む」

「わかった。じゃあ、また明日ね」


 彼は剣士で毎日鍛えているとあって背負うとやはり重い。

 オッサムの家まで少し遠いが、問題ない。


 しかしそれは私も鍛えているから、という訳でもない。

 私はこのパーティの魔道士であり、身体強化など造作もない。


 一人の男としては自分も鍛えておくと良いだろうな~、くらいには思うが生憎本腰入れてやろうというその気が起きない。

 それより新しい魔導書でも読んでいたいと思うからだ。


 私には私の、彼には彼の畑がある。

 このパーティではそれぞれが自分の得意分野に特化している。


 オッサムは剣術。

 カーパは体術。

 フレイルは治癒魔法と薬学。

 そして私は戦闘魔法。


 こうして背負われている彼だって、ここらでは向かうところ敵なしの天才だ。

 カーパも、フレイルも同様。

 そこに私の支援魔法も相まって、かなりバランスが良い構成だと思う。


「んなっ!しまったー!!」


 後ろの方からフレイルの叫び声が聞こえて来た。

 そそっかしいのはいつものことだ。それはこのあたりの人も知っているし放っておいて問題なかろう。


 さて、ちょうどオッサムの家に着いたところで彼の妹アッサムが出迎えてくれた。


「あーもう、兄さん!何やってるの迷惑かけて……ジゼルさんありがとうございます」

「いいよいいよ、今日も楽しかった」


 彼女が起こそうとしてくれるのは助かるのだが、容赦なくバシバシ叩いてくるものだからその衝撃が伝わってきて痛い。

 それでオッサムが吐いても面倒なので、是非とも優しくしてあげてほしいものである。


「ん……あぁ、すまんジゼル。いつの間にか眠ってた」

「構わないよ。今日はよく休むといい」

「そうさせてもらう……」


 妹さんがこちらをチラチラ見ているが、反応したらやぶ蛇を突きそうなので知らぬふりをしておこう。

 最悪私は逃げれば良いが、オッサムはそうもいかない。妹の前では天才剣士も型なしなのである。


 引き渡しを終え、下宿先に戻り軽く身を整える。それから私はいつもの如く魔導誌を開いた。魔導書ほど堅苦しくない、魔法専門の雑誌のようなものだ。


 なるほど、それによると王都では浄水の魔法なるものが使われるようになったらしい。この分野はフレイルの役にも立ちそうなので今度貸してあげよう。


 フレイルと言えば今日の『追い出し』は少し変だった。どこか本心でないような雰囲気があるのは毎度変わらないが、理由を言えなかったというのはられか今更の話だがいつも『追い出し』しかしないのは何故なのだろう。


 彼らは別に頭が悪いわけでもない。それどころかむしろキレる方だと思う。

 だからこそ頑なにアレを押し通そうとするのはよく分からない。

 変なものに影響されたのだろうか?


 うーん。どうにも今日は集中できそうにないな。

 考えないようにしていた事を考えてしまう。

 少し早いが休んでしまおう。


 ──なぜ考えないようにしていたかって?

 そんなもの、面白おかしい冒険者生活には不要だからに決まっているだろう?


 思考停止、とも言うかもしれない。

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