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9どうやら人違いの様です

 翌日会社で仕事をしていると、昨日お会いした安川部長と若い女性、それから知らない男の人達ふたりがやってきました。席についていた皆さんが一斉に立ち上がったので、私も慌てて席を立ちました。


「ちょっといいかな。今日から庶務に配属された杉千加子さん。皆さんよろしく」


「杉です。よろしくお願いします」


「皆さん、よろしく頼むね」


 そういって四人は、去っていきました。


「課長、あの子ですか?」


「そうみたいだね」


 あの四人が下に降りていったのと同時に、30代の男性小田係長が鈴木課長に目配せして聞いてきました。鈴木課長は、何やら苦笑いを浮かべています。そこに近藤さんが突っ込みを入れてきました。


「課長、珍しいですね。新人の配属に支店長ばかりか本社から取締役がお見えになるなんて」


「あの子、ずいぶん上の方からのコネらしいからね」


「そうなんですか?」


「親会社さんのお偉いさんのコネらしいよ。ねえ、そうでしたよね。鈴木課長?」


「ああ、そうみたいだよ。安川部長が嘆いておられた」


 その言葉に近藤さんは目をキラキラさせて鈴木課長を見ています。鈴木課長は困ったような顔をして説明を始めました。


「親会社さんとしても無碍にできない方からの紹介らしいんだ。波風立てずに過ごしてほしいものだよって言っておられたよ」 


「親会社って清徳グループの事ですよね。またまたすごいところからの紹介ですね」


 近藤さんがいい、小田係長もうんうんとうなづいています。


 私も、黙ってその会話を横でふむふむと聞いていました。が、あれっ! まるで自分の事を言われているような気がします。

 

 あっ! そういえばさっきの女性は、私と歳が近かかった気がします。しかも以前の私ほどではありませんが、緩いカールをかけていてセミロングです。髪型が似ているといえば似ていなくもありません。あとは名前です。杉千加子さんでしたか。柳と杉、同じ木にかかわる苗字ですし、名前に同じ千が付いています。

 私は、笑いを抑えるのに必死でした。その時です。私と同じで三人の話に参加していなかった青木さんがなぜか私を凝視しています。

 私が笑いを必死でこらえているのが、不思議だったのでしょうか。それとも不審に思ったのでしょうか。彼は、私がいぶかしげに見るとすぐ目をそらしてパソコンの仕事を始めました。


「ねえ、柳さん。柳さん!」


 近藤さんは、私を何度も呼んでいたようです。私が慌てて近藤さんの方を見ると、近藤さんは私が今まで目を向けていた青木さんを見てから、私を見てニコッと笑いました。


「はい。すみません」


 私が何度も呼ばれたのに返事をしなかったことを詫びると、近藤さんの笑みが一層深くなった気がします。


「いいの。いいの。気にしないで。それより今日のお昼楽しみね。私たちどういう態度すればいいのかしらね。相手は生粋のお嬢さまなんでしょうね」


「そうですね」


 私が青木さんを見ていた理由を、絶対勘違いしている近藤さんに何も言えずに、ただ相づちを打つことしかできませんでした。


 お昼の時間がやってきました。近藤さんと食堂に行くと、今日入社した杉さんはいませんでした。今日はその話題で持ちきりです。


「今日入った杉さんいないわね」


 近藤さんが食堂を見回して言うと、待ってましたとばかり桧垣さんが教えてくれました。


「彼女は、隣の役員室で取締役と支店長とお昼を食べているのよ。しかもうな重よ。うな重!」


「そうよ。それも特上よ!」


 もう一人の庶務の女性新山さんが教えてくれます。新山さんは40代のパートさんです。やはりここには長く勤めているようです。


「でも明日からは、ここで昼食とるんでしょ」


「そうじゃない? さすがに毎日はないでしょう」


「そうよね。取締役も明日はいないし、支店長も毎日いるわけじゃあないしね」


「そうなんですか?」


 私は、昨日見なかった支店長が普段はどこにいるのか気になりました。


「支店長は、うちの本社の部長も兼ねているからいつもは本社なのよ」


 なるほど、それで誤解が生まれたのかもね、私は納得しました。ちょうど同じ年ごろの子がふたり入ってきて、しかも髪型に特徴があります。私の最新の髪型まで、伝えていなかったのでしょう。

 

 私がひとりお弁当を食べながらにまにましていると、近藤さんがこちらをじっと見ていました。

 私が近藤さんを見ると、近藤さんは深くうなずいて自分のお弁当を食べ始めました。きっと近藤さんは何か誤解をしている気がします。しかし私は、あえてそのままにしておきました。きっと誤解を解こうとすればするほどややこしくなりそうだから。まあロマンスに飢えているお姉さま方に、話題を提供してあげようとその時には軽く考えていました。


 そうして私の今世での社会人生活は、何事もなく過ぎていきました。


 私と勘違いされた杉さんは、上司たちにちやほやされたのがうれしかったのか、自分は特別な存在だと思うようになってしまったようです。まるでお嬢様のように壮大にふるまっているようです。昼食は私たちと一緒にとっていますが、食べ終わるとすぐに自分の席に戻りスマホを見ているそうです。

 しかも周りもまるで腫れものを触るように扱うので、杉さんの態度は一向に変わることがありません。

 

 家に帰った私は、敏腕マネージャーの久美ちゃんに聞いてみました。杉さんの事を。きっと久美ちゃんならすぐに調べてくれるでしょう。


 さすが久美ちゃんです。一時間ほどでいろいろ教えてくれました。杉さんは、中小企業の部長さんの娘さんでした。この会社の取引先で、その関係でコネで入ってきたようです。不思議なことに久美ちゃんは、私と杉さんが間違われていることなどうちの会社の事をすべて知っていました。さすがです!

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